あなたは本当に「わかって」いますか? 『わかったつもり』が暴く、デキる人が絶対にハマらない思考の罠
「本の変人」こと、Low calm(ロウカーム)です。美味しいお茶と読書を愛し、年間150冊の活字の海を泳ぎながら、本業では人事労務管理という「ヒト」の悩みの最前線に立っています。
私のモットーは「あなたの時間を大切にすること」。 私自身が「本選びの失敗」を心底嫌っており、このブログでは「時間の無駄だった」と感じた本は容赦なくそう書きますし、逆に「これは!」と確信した良書だけを紹介しています。
さて、突然ですが、あなたはこんな経験ありませんか?
- 「あれだけ丁寧に説明したのに、部下のアウトプットが全く違う…」
- 「会議では皆『わかりました』と言っていたのに、誰も動かない…」
- 「上司の指示が曖昧で、『たぶんこういうことだろう』で進めたら、後でひっくり返った…」
本業が人事労務の私は、こうした「コミュニケーションのズレ」が引き起こす悲劇を、それこそ毎日浴びるように見てきました。評価制度の説明会を開いても、なぜか真逆の解釈が広まったり、「言った」「言わない」で労務トラブルに発展したり。
私はずっと、「なぜ、これほどまでに人は分かり合えないのか?」と悩んでいました。伝える側のスキル不足か? 受け取る側の理解力不足か?
その答えが、この一冊にありました。 西林克彦 著『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』(光文社新書)です。
結論から言います。これは「あたり」です。 もしあなたが、先ほどの項目に一つでも当てはまり、職場の非効率なコミュニケーションにうんざりしているなら、この本はあなたの「時間の投資」に見合う確実なリターンをもたらします。
この記事では、まず結論として、年間150冊読む「本の変人」であり、人事労務のプロとして「ズレ」に悩み続けた私が、本書のどこに「グッときた」のかをベスト3形式で紹介します。
私のブログのコンセプトは「あなたの時間を大切にすること」。 この最初の「ベスト3」だけ読めば、本書の核心と、あなたがこの本を読むべきかどうかが8割わかります。
もちろん、最後まで読んでいただければ、より深く「わかったつもり」の正体を知り、明日から使える具体的なアクションプランまで持ち帰ることができます。
あなたの貴重な数分間、私に投資してください。絶対に「時間の無駄だった」とは言わせません。
📖 Low calmが「グッときた」ところベスト3
では早速、私が「これは!」と膝を打った箇所を、ランキング形式で紹介します。もちろん、本書の価値を損なうネタバレは一切ありません。
【第1位】「わかったつもり」は、思考の「安定状態」であるという指摘
私たちは「わかったつもり」を、不注意や怠慢の結果だと思いがちです。しかし、著者は「わかったつもり」とは、むしろ脳が効率よく情報を処理しようとした結果生み出される「一種の安定状態」であり、「非常に手ごわい」ものだと喝破します。
これこそ、私が人事部で直面していた問題の根本原因でした。
例えば、新しい人事評価制度を導入する際、私は全社説明会で「透明性の高い、公平な評価を目指します」と説明していました。私の中の「公平」と、現場の社員Aさんの「公平」、管理職Bさんの「公平」は、全く別物です。
しかし、説明会という場では、彼らの脳は「公平」という心地よい言葉と、「なんとなく良さそうだ」という「全体の雰囲気」(これも本書の重要キーワードです)を掴んだ瞬間、「わかった」という「安定状態」に移行してしまうのです。
私は「説明した」つもり。社員は「わかった」つもり。 しかし、いざ評価が始まると「こんなはずじゃなかった」「話が違う」という不満が噴出する。なぜなら、彼らは私の説明そのものではなく、自分のスキーマ(過去の評価体験や期待)で補完した「自分にとって都合の良い制度」を「わかった」つもりになっていただけだからです。
私はこれまで、彼らの「理解力」を疑っていました。しかし、違いました。 彼らが「わかったつもり」という安定状態に陥ることを許し、その「わかった」の中身を確認しなかった私自身の「伝わったつもり」こそが、最大の問題だったのです。
この「わかったつもりは怠慢ではなく、脳の仕様である」という視点を得ただけで、私は「なぜ伝わらないんだ!」とイライラする(=時間の無駄)のをやめ、「どうすればこの『安定状態』を壊せるか?」と建設的に考えられるようになりました。
【第2位】「わかる」とは「レベル分け」できるという定義
あなたは部下に「今の説明、わかった?」と聞いた時、相手が「はい、わかりました」と答えたら、何を根拠に「わかった」と判断しますか?
本書は、「わかる」という言葉がいかに多義的で曖昧であるかを突きつけます。そして、「わかった」という状態を明確にレベル分けして提示してくれます。
人事として、日々「わかりました」という言葉の虚しさを感じていました。
「このパワハラ防止研修の資料、読みましたか?」 「はい、読みました(=わかった)」 「来月からこの勤怠システムに変わります。マニュアル読みましたか?」 「はい、読みました(=わかった)」
しかし、彼らの「わかった」は、せいぜい「その言葉が目に入った」レベル(本書で言うところの低いレベル)だったのです。 一方で、私が求めていたのは「内容を理解し、自分の行動を変えられる」レベル(高いレベル)の「わかった」でした。
この「わかるレベル」の定義が、私と相手の間で全く共有されていなかった。だから、私は「わかった」と言ったのにやらない相手に腹を立て、相手は「わかった(読んだ)」のに、なぜか怒られる理不尽を感じていたのです。
この本を読んでから、私は「わかった?」という無意味な質問を一切やめました。 代わりに、「わかるレベル」を測る質問をするようになりました。
例えば、「今説明した新しい勤怠システム、もし隣の席の〇〇さんが『よくわからない』と言ったら、あなたならどのポイントを一番重要だと説明しますか?」と。
こう尋ねるだけで、相手が「どのレベルで」わかっているのかが一瞬で可視化されます。これは人事労務管理だけでなく、あらゆるビジネスシーンで「わかったつもり」の事故を防ぐ、強力な武器になります。
【第3位】「わかったつもり」を壊すための具体的な「処方箋」
本書の素晴らしい点は、単に「わかったつもりは危険だ」と煽るだけでなく、第5章(最終章)で、その「わかったつもり」の硬い殻を「どう壊すか」について、教育心理学の専門家として具体的な技術を提示している点です。
私は年間150冊も本を読みますが、その多くが「問題の指摘」だけで終わり、具体的な「How(どうやって)」が弱いと感じることが多く、そういう本は「時間の無駄」と断じてきました。
しかし、本書は違います。 特に「異なる視点」の持ち込み方には、ハッとさせられました。
以前の私は、部下が「この企画書、できました」と持ってきた時、自分の経験(スキーマ)に基づいて「この部分は甘い」「ここは前例がない」と減点法でフィードバックしていました。これは、私の「わかったつもり(=この企画書はダメだ)」を押し付けているだけです。
しかし本書を読み、私は自分の「わかったつもり」を疑うようになりました。 そして、フィードバックの方法を変えました。
「ありがとう。私は『人事労務』の視点ではOKだと思う。もし君が『営業部長』だったら、この企画書のどこが一番気になりますか?」 「もし、この企画が『最悪のシナリオ』を辿るとしたら、何が原因だと思いますか?」
このように、意図的に「別の視点(別の文脈)」を問いかけることで、部下自身も私も「わかったつもり」の殻を破り、思考を深めることができるようになりました。
精神論ではなく、「問い」という「技術」で「わかったつもり」を壊すことができる。この具体的な処方箋こそ、本書を単なる啓発書ではなく、実用的な「ビジネス書」たらしめている最大の理由です。
👤 どんな人におすすめなのか
私の「グッときた」体験談を踏まえ、この本を「読む時間」が有益になる人、逆に「時間の無駄」になる可能性がある人を、人事労務の視点から正直にまとめます。
おすすめな人(3パターン)
- 部下や後輩に「何度言ったらわかるんだ」とイライラしがちな管理職・先輩 → そのイライラの原因は、相手の能力ではなく、あなたと相手の「わかるレベル」のズレ、そして「わかったつもり」という脳の仕様にあるかもしれません。この本は、あなたのマネジメントにおける無駄な怒りを、建設的な「問いかけ」に変えてくれます。
- 会議で「結局、何が決まったんだっけ?」となりがちな中堅社員 → あなたは会議中、「わかったつもり」の「安定状態」に陥っていた可能性が高いです。なぜそうなるのか、どうすれば会議の場で本当に「わかる」ことができるのか、そのヒントが満載です。
- 自分の指示がなぜか部下に正しく伝わらない、と悩む人事・教育担当者(私自身です) → 制度やルールを「伝える」ことの難しさを知るすべての人へ。これは「伝え方」のテクニック本ではありません。「理解」そのものの構造にメスを入れる本です。あなたの説明会や研修資料の作り方が根本から変わるはずです。
おすすめしない人(3パターン)
- 自分のコミュニケーション能力に絶対の自信があり、他人の意見を聞く気がない人 → この本は「自分の『わかったつもり』を疑う」ことから始まります。その必要性を感じない方には、残念ながら時間の無駄になるでしょう。
- 認知科学や思考プロセスといった、少し小難しい話に一切興味が持てない人 → 本書は新書であり、読みやすく書かれていますが、ベースは「教育心理学」です。なぜそうなるのか、という理屈の部分を丁寧に解説しています。その理屈が面倒だと感じる方には向きません。
- 「読めばすべて解決する」魔法のテクニックだけを求める人 → 第3位で「技術」と書きましたが、それは「〇〇と3回言えば伝わる」といった安易なものではありません。自分の思考のクセを自覚し、意識的に「問い」を変えるという、地道なトレーニングが必要です。その努力を「時間の無駄」と感じる人にはおすすめできません。
📚 著者のプロフィール、本の詳細
目次
(※著作権に配慮し、主要な章立てのみ紹介します)
- 第1章 「読み」が深まらないのはなぜか?
- 第2章 「読み」における文脈のはたらき
- 第3章 これが「わかったつもり」だ
- 第4章 さまざまな「わかったつもり」
- 第5章 「わかったつもり」の壊し方
第1章から第4章までで「わかったつもり」が生まれるメカニズムを徹底的に解剖し、最後の第5章で処方箋を提示するという、非常に論理的で無駄のない構成になっています。
著者のプロフィール
西林 克彦(にしばやし かつひこ)氏 1944年生まれ。教育心理学者。宮城教育大学名誉教授。 「知識のありよう」や「学習指導」を専門とし、『間違いだけの学習論』『「わかる」のしくみ』など、一貫して「理解」とは何かをテーマに研究、執筆活動をされています。 「わかったつもり」という現象を、認知科学・教育心理学の側面から分析できる、まさに第一人者と言える方です。
本の詳細
- 書名: 『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』
- 著者: 西林 克彦
- 出版社: 光文社 (光文社新書)
- 発売日: 2005年9月20日
- ページ数: 216ページ
✅ まとめ:あなたの「わかった」を疑う勇気
最後に、この記事の核心をまとめます。
私たちが日々直面するコミュニケーションのズレ。その多くは、悪意や能力不足ではなく、「わかったつもり」という脳の仕様(安定状態)によって引き起こされています。
私たちは、相手と自分の「わかるレベル」が違うことを認識せず、「わかった?」という無意味な確認を繰り返し、お互いの「わかったつもり」を見過ごしてきました。
本書は、その「わかったつもり」の正体を暴き、そこから脱出するための具体的な「技術(問いかけ)」を教えてくれます。
この本を読んだ私のビフォーアフター
- 読む前(Before): 「なぜ部下は指示通り動かないんだ!」(相手の能力を責める) 「説明会を完璧にやったのに、なぜ理解しないんだ!」(自分の「伝わったつもり」を疑わない)
- 読んだ後(After): 「相手は今、どのレベルで『わかった』のだろう?」(相手の理解レベルを測る) 「私の『わかったつもり』を壊すために、別の視点(問い)を立ててみよう」(自分の思考のクセを疑う)
私は、人事労務という仕事柄、「わかったつもり」が引き起こす組織の停滞や、人間関係の破綻を嫌というほど見てきました。それは、会社にとっても、働く個人にとっても、膨大な「時間の無駄」です。
もしあなたが、その「無駄」から本気で抜け出したいと願うなら、この216ページ(読書家なら2時間、じっくり読んでも4時間程度)の時間は、決して無駄にはなりません。
あなたへの具体的なアクションプラン
この本を読むかまだ迷っているなら、まずは明日、試してほしいことがあります。
あなたが参加する会議、あるいは部下との1on1で、誰かが「はい、わかりました」と言った瞬間に、こう問いかけてみてください。
「ありがとうございます。念のため確認ですが、今『何が』『どのように』わかったのか、具体的に教えてもらえますか?」
最初は言いにくい質問かと思いますが、最終的にあなた自身の仕事が後から増える前に言ってみましょう。
おそらく、驚くほど認識がズレていることに気づくでしょう。 そのズレこそが、あなたがこの『わかったつもり』を読むべき、何よりの理由です。

