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ミステリー
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「それ、あなたの”職分”ですか?」――仕事に悩む全会社員に、人事部の私が『職分』を叩きつけたい理由。

Low Calm
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「時間の無駄」。 私、Low calmが読書において最も憎む言葉です。美味しいお茶を淹れる時間、その本を選ぶ時間、そして読む時間。その全てが「失敗」に終わるほど虚しいことはありません。

結論から申し上げます。今野敏氏の『職分』は、あなたが「会社の理不尽」や「組織の縦割り」に息苦しさを感じているならば、その時間を投資する価値のある「最高の組織論テキスト」です。

しかし、もしあなたが派手な銃撃戦や、血湧き肉躍るアクション、あるいは私が愛する「イヤミス(後味の悪いミステリ)」のような強烈な刺激を求めているなら、その時間は確実に無駄になります。今すぐこのページを閉じ、別の本を探すことを強く推奨します。

この記事では、年間150冊の活字中毒者であり、本業で人事労務管理に携わる私(ミステリ愛好家)が、なぜこの「地味な」警察小説を「失敗しない一冊」として確信したのかを、徹底的に解剖します。


この記事でわかること

  • 『職分』が単なる警察小説ではない、「組織論」としての真価
  • 人事部(私)が心を抉られた、「働くこと」に関する痛烈な描写ベスト3
  • あなたがこの本を読むべきか、読まないべきかの最終判断

このブログのモットーは「あなたの時間を大切にすること」。最初だけ読んでも結論はわかります。ですが、最後まで読めば、あなたは明日から「仕事」と「職分」という言葉を、明確に使い分けることができるようになるはずです。


グッときたところベスト3

本書は、千葉県警の刑事・堂木功一朗(どうき こういちろう)を主人公とする警察小説です。「事件」そのものよりも、事件を取り巻く「組織」の闇と光に焦点が当てられています。私が心を掴まれた「プロフェッショナリズムの核心」を、第一位から紹介します。

第一位:主人公・堂木が貫く「職分」の定義

(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 「仕事」とは、ただ目の前の作業をこなすこと。 「職分」とは、その役職・立場の人間として、組織全体の中で果たすべき「本当の役割」を全うすること。たとえそれが、上司との対立を意味しようとも。

これこそ、私が本業(人事)で日々、全従業員に問い続けたいことです。 「あなたは『作業』をしていますか? それとも『職分』を果たしていますか?」と。

多くの人間は、波風を立てないよう、言われたことだけをこなす「仕事」に逃げ込みます。しかし、主人公の堂木は違います。彼は「刑事」という職分を果たすためなら、警察内部の不文律、キャリアとノンキャリアの壁、他部署との縄張り争いといった「組織の理不尽」に、真正面から立ち向かいます。

彼はヒーローではありません。ただ、自分の「職分」に異常なまでに誠実なだけです。 この「職分」というたった二文字の言葉の重みを、これほどまでに痛烈に突きつけてくる小説を、私は他に知りません。

第二位:吐き気がするほどリアルな「組織のセクショナリズム」

(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 事件解決という「全社的な目的」があるはずなのに、「本部のメンツ」「所轄の意地」「キャリア組の出世レース」といった内部の都合が、捜査の進展を阻む。

私は活字中毒者であると同時に、ミステリ中毒者でもあります。しかし、本作の「ミステリ(謎)」要素は、事件そのものよりも、この「警察組織という名の伏魔殿」にあります。

なぜ、彼らは協力しないのか。 なぜ、彼らは情報を隠すのか。 なぜ、彼らは「お客様(=県民)」のためではなく、「組織」のために動くのか。

これは、警察小説の形を借りた、現代の「大企業病」のカルテです。 人事部として、私は毎日「部署間の対立」や「無意味な縄張り争い」の仲裁をしています。だからこそ、本書で描かれるセクショナリズムの「くだらなさ」と「根深さ」には、共感と怒りで吐き気すら覚えました。

このリアルすぎる組織の描写こそが、今野敏作品の真骨頂です。時間を無駄にしないどころか、自分の職場環境を客観視する「鏡」として機能しました。

第三位:「解決」ではなく「落としどころ」を探る現実

(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 堂木が探すのは、必ずしも「100%の真実」や「完全なる正義」ではない。組織という巨大な船を沈めないために、どこに「落としどころ」を見つけるか。その現実的な政治力。

私は普段、人間の悪意がむき出しになる「イヤミス」を好んで読みます。そこでは「白黒ハッキリつく結末」や「救いのない真実」が描かれます。

正直に告白します。 読む前、私は今野敏氏の警察小説を「予定調和の公務員賛歌」だろうと侮っていました。それは私の時間を無駄にするだろう、と。

しかし、それは甚だしい誤解でした。 『職分』で描かれるのは、そんな生易しいものではありません。 正義を振りかざすだけでは、組織は崩壊する。かといって、不正義を許せば「職分」は果たせない。 このギリギリのバランス感覚の中で、堂木は「正解」ではなく「最適解(=落としどころ)」を探し続けます。

このヒリヒリするような現実主義こそ、管理職や人事担当者が直面する「調整業務」そのものです。 派手なドンパチは一切ありません。しかし、会議室で交わされる言葉の裏側にある「大人の戦い」の緊張感は、下手なアクション小説を遥かに凌駕します。


どんな人におすすめなのか

この本があなたの時間を豊かにするか、それとも無駄にするか。明確に線引きします。

おすすめな人

  1. 組織の「理不尽」や「縦割り」に悩む、全ての中間管理職 主人公・堂木の「職分」を貫く姿勢は、明日から組織と戦うための「武器」になります。これはあなたのための本です。
  2. 人事・労務・総務など、組織の「調整役」を担うバックオフィス部門の人 「セクショナリズム」や「落としどころ」の生々しい描写は、あなたの日常業務そのものです。共感と学びしかありません。
  3. 派手なアクションより、「会議室の緊張感」を楽しむのが好きな人 『半沢直樹』や『七つの会議』のような、言葉とロジックで戦う組織ドラマが好きな人には、最高の読書体験を約束します。

おすすめしない人

  1. ミステリに「派手なアクション」や「ドンパチ」を求める人 一切ありません。本書の戦場は「会議室」と「電話」です。あなたの時間を確実に無駄にします。
  2. 複雑な組織図や、登場人物の「役職」を覚えるのが苦手な人 本書の面白さの半分は、「〇〇課の課長」と「〇〇部の部長」の力関係を理解することにあります。これが苦手な人には苦痛です。
  3. 勧善懲悪。悪い奴がスカッと成敗される「水戸黄門」的ストーリーが好きな人 本書の結末は「最適解」であり、必ずしも「100%の正義」ではありません。現実的な落としどころにモヤモヤする方には向きません。

目次、著者のプロフィール、本の詳細

目次

本書は、主人公・堂木の視点で一貫して描かれる長編小説です。章立てはシンプルに数字で区切られています。 (出典:新潮社 公式サイトの情報を基に、Low calmが構成を要約)

※著作権保護の観点から、詳細な目次ではなく、構成のみを記載しています。内容は「千葉県警」という巨大な組織の中で、主人公が自らの「職分」を問い、貫徹しようとする姿を描いた長編です。

著者のプロフィール

今野 敏(こんの びん) 1955年、北海道生まれ。上智大学文学部在学中の1978年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞しデビュー。 卒業後はレコード会社に勤務しながら執筆。2006年、『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞を受賞。2008年、『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。 『ST 警視庁科学特捜班』『ハンチョウ』『隠蔽捜査』など、映像化作品を多数持つ、警察小説・組織小説の第一人者。

本の詳細

  • 書籍名: 職分 堂木功一朗
  • 著者: 今野 敏
  • 出版社: 新潮文庫
  • 発売日: 2017年10月28日
  • ページ数: 352ページ


口コミ

良い口コミ

「今野敏『職分』読了。堂木シリーズ、やっぱり面白い。これは事件ミステリじゃなくて『組織ミステリ』だ。警察内部のリアルな駆け引き、セクショナリズムの描写がエグい。会社員として刺さりまくる。」

「『職分』ってタイトルが全て。ただの仕事じゃなくて、自分の役割を全うするとはどういうことか。堂木さんのブレない姿勢がカッコ良すぎる。地味だけど、骨太な一冊。こういうのが読みたかった。」

悪い口コミ(または賛否両論)

「うーん、職分。期待してたけど、ほとんど会議と電話で終わった。アクションとか緊迫の捜査を期待してたから、かなり地味だったな。組織論が好きな人向け。」

「今野敏の警察小説、ワンパターンに感じてきたかも。組織の論理と、それに抗う主人公。面白くないわけじゃないけど、刺激が足りない。もっと事件そのものを追ってほしかった。」


まとめ:あなたの時間を投資すべきか

『職分』は、あなたの時間を投資する価値がある一冊でしょうか。

私は、本作の核心をこう読み解きました。

この物語は、「正義」と「悪」の戦いではありません。 「自らの職分を全うしようとする者」と「組織の論理に安住する者」の戦いです。

それは、派手なアクション(私が期待し、そして裏切られた点・第三位)ではなく、リアルすぎる組織のセクショナリズム(第二位)との地味な戦いです。 そして、その戦いを支えるのが、「作業」ではなく「役割」を果たすという、主人公の強烈な職業意識(第一位)なのです。

読む前の私は、人事部の人間として「組織論」には飽き飽きしており、読書にまで仕事の延長を持ち込みたくない、と思っていました。 読後、私は「組織の中で『職分』を果たすこと」の格好良さと尊さを、フィクションの力で再確認させられました。

これは、私の「イヤミス好き」という嗜好とは真逆の読後感でした。 しかし、私の「人事労務」という本業には、これ以上ないほど深く突き刺さりました。 これは「時間の無駄」では断じてありません。むしろ、働くことへの解像度を上げる、最高の「自己投資」です。

あなたに問います。 あなたは明日、会社で「仕事」をしますか? それとも、「職分」を果たしますか?

その答えが曖昧なら、今すぐこの本を読むべきです。


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