『パンどろぼうとスイーツおうじ』凝り固まった大人の心にこそ突き刺さるその理由
本の変人、Low calm(ロウカーム)です。美味しいお茶を淹れて、今夜も珠玉の一冊に向き合っています。
さて、突然ですが、あなたは「絵本」を読みますか?
「絵本なんて、子供が読むものでしょう?」 「仕事で疲れているのに、わざわざ絵本なんて…」
もしそう思っているなら、あなたの貴重な時間を、ほんの数分だけ私にください。
私は普段、年間150冊ほどの本を読みますが、その大半は難解な純文学や、人間の暗部を描くミステリ(特にイヤミス)です。本業は会社員として人事労務管理を担当しており、日々「ヒト」という理屈だけでは割り切れない存在と向き合っています。
そんな私が、なぜ今回、絵本を紹介するのか。 答えは簡単です。この本が、私が心底嫌っている「本選びの失敗」とは無縁の、「これは!」と確信した良書だったから。
今回ご紹介するのは、柴田ケイコ氏による大人気シリーズの最新作『パンどろぼうとスイーツおうじ』(KADOKAWA)です。
この記事を読めば、なぜこの絵本が「子供だまし」どころか、むしろ凝り固まった大人の心にこそ突き刺さるのか、その理由がわかります。
- この記事でわかること:
- ミステリ好きの私が「やられた!」と唸った、見事な物語の構造
 - 大人が「食わず嫌い」を克服するためのヒント
 - 本書の楽しみ方と、逆に「おすすめしない人」
 
 - 記事の信頼性:
- 年間150冊の活字中毒者であり、人事労務のプロとして「人間の偏見」を見てきた私が、ジャンルを超えて推薦します。
 
 - 読んだ後のあなた:
- 「絵本=子供のもの」という**最大の「食わず嫌い」**が解消されます。そして明日、あなたが「苦手だ」と決めつけている誰かに対する見方が、少しだけ変わっているはずです。
 
 
あなたの時間を無駄にはさせません。どうか最後までお付き合いください。
☕️ グッときたところベスト3(大人の心に刺さる理由)
この本は、ただ可愛いだけの絵本ではありません。そこには、大人の私たちが日常で忘れがちな、しかし非常に重要な「真実」が隠されています。私が特に心を掴まれた箇所を、ランキング形式で紹介します。(ネタバレはありませんのでご安心を)
第3位:情報量の暴力。大人の「集中力」を試す描き込み
まず、絵本を開いて圧倒されたのが、その「情報密度の高さ」です。 特に物語の中盤、あるパーティのシーン(詳細は伏せます)の見開きページは圧巻の一言。
何十種類ものスイーツ、個性豊かな招待客たち。その一人ひとり、一つひとつに表情があり、物語があります。
なぜグッときたか: これは、子供向けの「絵探し」のレベルを超えています。大人が本気で集中しなければ、すべての仕掛けを見つけることはできません。
私たちは普段、仕事や情報に追われ、「流し読み」や「ナナメ読み」が癖になっています。しかしこの本は、「ちゃんと見ろ」と要求してきます。細部にこそ真実が宿る、と。 普段ミステリで伏線を探すように絵を隅々まで眺め、作者の仕掛けた遊び心を見つけた時の快感は、まさに「大人の楽しみ」でした。
第2位:「ただの泥棒」ではない。主人公の「成長」
パンどろぼうといえば、第一作ではパンを盗んで回る、文字通りの「どろぼう」でした。しかし、シリーズを経て、彼は大きく変わりました。
今作で彼は、「スイーツおうこく」のおうひさまから、ある重大な依頼を受けます。それは「盗み」ではなく、ある人物の「悩み」を解決すること。 彼は妨害にあいながらも、諦めずにその人物と向き合おうとします。
なぜグッときたか: 彼の行動は、もはや「自分のため」ではありません。「他者のために」、自分の得意なこと(=美味しいパン)で貢献しようとします。
私は人事の仕事柄、「人の成長」には敏感です。第一作であれだけ自己中心的だった(そこが魅力でもあった)パンどろぼうが、これほどまでに利他的な行動をとる姿に、胸が熱くなりました。 人は変われる。それはフィクションの世界だけでなく、現実でも同じです。彼の成長は、私たち大人にも勇気を与えてくれます。
第1位:「食わず嫌い」の正体。偏見が溶けるカタルシス
そして、堂々の第1位は、この物語の核心です。 今作のキーパーソンである「スイーツおうじ」は、スイーツ以外を絶対に食べようとしない、極端な「食わず嫌い」です。
彼は、パンどろぼうが持ってきたパンに対しても、最初から「まずい」「いらない」と決めつけ、拒絶します。なぜ彼は、そこまで頑なになってしまったのか。 その「謎」が解き明かされ、彼の頑なな心がパンどろぼうによって(物理的にも心理的にも)こじ開けられる瞬間。
なぜグッときたか: これこそ、私がこの本を「大人にこそ読んでほしい」と確信した理由です。
「スイーツおうじ」の姿は、そのまま私たち大人の「偏見」や「固定観念」のメタファーです。
- 「あの部署の人は、どうせ協力してくれない」
 - 「最近の若者は、根性がない」
 - 「あの人は苦手だから、関わらないでおこう」
 
これらはすべて、対象を「食べてもいない」のに「まずい」と決めつける、「食わず嫌い」です。
人事労務の仕事をしていると、この「食わず嫌い(レッテル貼り)」が、どれだけ組織のパフォーマンスを下げ、人間関係を悪化させるかを嫌というほど見てきました。 一度貼ったレッテルを剥がすのは、本当に難しい。
しかし、パンどろぼうは諦めません。 そして、頑なだったおうじの心が溶け、新しい世界の味を知る瞬間の表情。このカタルシスは、上質なミステリの「謎」が解けた瞬間の快感に匹敵します。
私たちは、自分が思っている以上に「食わず嫌い」です。この絵本は、その事実に優しく、しかし鋭く気づかせてくれるのです。
📖 この本は、誰の「時間」を豊かにするか
「あなたの時間を大切にする」という私のモットーに基づき、この本がどんな人に合い、どんな人には合わないか、正直にお伝えします。
おすすめな人(3パターン)
- 「絵本は子供のもの」と決めつけている、すべての大人
- まさに「食わず嫌い」をしているあなたです。この本は、その固定観念を痛快に打ち破ってくれます。読み終えた後、あなたは「絵本」というジャンルを再評価しているはずです。
 
 - 職場の人間関係で「レッテル貼り」をしがちな人
- 「あの人は〇〇だ」と決めつけ、コミュニケーションを諦めていませんか? この本は、その思い込みの壁を壊すヒントをくれます。人事担当の私からも、特におすすめしたいです。
 
 - 柴田ケイコ氏の圧倒的な画力を浴びたい人
- 物語もさることながら、その描き込みの熱量は凄まじいものがあります。「神は細部に宿る」を体現したような絵は、アートブックとしても一級品です。
 
 
おすすめしない人(3パターン)
- 寝る前の「読み聞かせ」用の一冊を探している親御さん
- これは意外かもしれませんが、本書は「読み聞かせ」にはあまり向きません。後述する口コミにもありますが、迷路や絵探しのページは、子供が自分でじっくりと絵本と向き合い、指でたどるためのものです。読み手が一方的に進められると、楽しさが半減してしまいます。
 
 - 主人公(パンどろぼう)にだけ大活躍してほしい人
- 今作のもう一人の主役は「スイーツおうじ」です。口コミにも「パンどろぼうの出番が少なめ」という声がある通り、彼の活躍を「だけ」を期待すると、少し物足りないかもしれません。
 
 - シリーズの「お約束」の展開だけを求めている人
- 人気シリーズゆえに、「いつものパン屋のおじさんは?」といった過去作の要素を期待する声もあります。今作は新しい舞台、新しいキャラクターが中心です。独立した物語として楽しむ姿勢が求められます。
 
 
📚 本書の世界観(あらすじと著者)
ここで、本書の基本情報と、物語の導入部分をご紹介します。
物語の導入(あらすじ)
本書は絵本のため、一般的な書籍のような章立ての目次はございません。 ここでは、KADOKAWA公式サイトに掲載されている「あらすじ」を引用し、物語の導入とさせていただきます。
スイーツおうこくのスイーツおうじは、スイーツばかり食べてほかのものを食べません。 心配したおうひさまは、パンどろぼうに解決してほしいと、お城へまねきます。 それが気に入らないおうじは、あの手この手でパンどろぼうの行く手をはばみますが―――。
(出典:KADOKAWA公式サイト『パンどろぼうとスイーツおうじ』紹介ページより https://www.kadokawa.co.jp/product/322504001412/ )
著者プロフィール
作:柴田 ケイコ(しばた けいこ) 高知県出身、在住の絵本作家、イラストレーター。奈良芸術短期大学ビジュアルデザインコース卒業。 広告や出版物などのイラストを手がける傍ら、2016年に『めがねこ』(手紙社)で絵本作家としてデビュー。 代表作である「パンどろぼう」シリーズ(KADOKAWA)は数々の賞を受賞し、アニメ化も決定するなど、爆発的な人気を博しています。他にも「しろくま」シリーズ(PHP研究所)など、ユーモラスで温かみのある作品を多数生み出しています。
本の詳細
- タイトル: パンどろぼうとスイーツおうじ
 - 作: 柴田 ケイコ
 - 出版社: KADOKAWA
 - 発売日: 2025年9月10日
 - ページ数: 32ページ
 
🗣️ 世間の声(口コミ・評判)
私の評価だけでなく、世間の「正直な声」も集めました。 依頼概要の指示通り、誰もが見るAmazonではなく、「読書メーター」や「絵本ナビ」といった、本好きが集うコミュニティサイトから、信頼できる声(ポジティブ・ネガティブ両面)を引用します。
良い口コミ
「食わず嫌いや偏食をなくすのは、とってもたいへん。おとなにだってあるからね。子どもたちより、おとなが喜ぶ展開かも。」 (読書メーターより)
「迷路やウォーリー(絵探し)のような仕掛けありで楽しい」「(迷路が)大人でもすぐにゴールにたどり着かず、結構難しかった!簡単にわからないところが良かった」 (読書メーター・楽天レビューより)
「描き込みの熱量、密度がすごい。パーティ会場のごちそうや招待客の衣装を見るのが楽しい」 (読書メーターより)
「(シリーズものだが)この一冊から読み始めても楽しめる独立した物語」 (noteレビューより)
やはり、「大人も考えさせられるテーマ性」と、「迷路や絵探しの圧倒的な描き込み」を評価する声が非常に多かったです。大人が読んでも、子供が読んでも、それぞれの視点で発見がある奥深さが伺えます。
悪い口コミ(好みが分かれる点)
もちろん、手放しで絶賛されているわけではありません。「あなたの時間を大切にする」ために、ネガティブな視点もしっかりお伝えします。
「おはなしの中に迷路や絵探しがあるので、読み聞かせには向きませんが、一人読みには楽しいですね。」 (絵本ナビ/クッチーナママさん 50代 より)
「パンどろぼう(の出番が)少なめ」 (読書メーターより)
「またおじさん(パン屋の)は登場しなくて残念」 (読書メーターより)
最も重要な指摘は「読み聞かせに向かない」という点でしょう。これは「おすすめしない人」でも挙げた通り、本書の特性です。子供に読んであげる本を探している方は、購入前に一度、書店で中身を確認することをおすすめします。 また、シリーズのファンゆえに「パンどろぼう(主人公)の出番」や「おなじみのキャラクター」を期待すると、肩透かしを食う可能性がありそうです。
🚀 まとめ:「食わず嫌い」の壁を壊す、最高の一冊
今回は、柴田ケイコ氏の『パンどろぼうとスイーツおうじ』をご紹介しました。
普段ミステリや純文学ばかり読んでいる私が、この絵本を「失敗しない一冊」として強く推薦する理由。それは、この本が「思い込み(食わず嫌い)」という壁を壊す物語だからです。
- 緻密な描き込み(絵)が、私たちの「流し読み」という思い込みを止めさせる。
 - 成長した主人公(パンどろぼう)が、「どうせ無理」という思い込みを捨てさせる。
 - そして物語の核心が、「あの人はこうだ」という他者への「思い込み(偏見)」がいかに脆く、無意味であるかを教えてくれる。
 
この本を読む前の私は、「絵本は大人が読むには単純すぎる」と、まさに「食わず嫌い」をしていました。 しかし、この本を読んだ今、その浅はかな偏見は消え去りました。わずか32ページの中に、これほど深く、温かいカタルシスが詰め込まれていることに驚嘆しています。
最後に、あなたへの具体的なアクションプランを提案します。
明日、職場で「苦手だな」と思っている人、あるいは「どうせ無駄だ」と避けている仕事を、ほんの少しだけ観察してみてください。
あなたが「まずい」と決めつけているだけで、本当は「スイーツおうじ」が知らなかったパンのように、とてつもなく「美味しい」一面が隠れているかもしれません。
この絵本は、その一歩を踏み出す勇気をくれる、大人のための処方箋です。 あなたの時間が、この一冊によって豊かになることを願っています。
Low calm(ロウカーム)でした。 次もまた、「あなたの時間を無駄にさせない」一冊をご用意してお待ちしています。


