このブログの著者について
ミステリー
PR

17年待たされた『鵼の碑』は、人生(時間)の無駄遣いか?【京極夏彦・ネタバレなし感想】

Low Calm
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

こんにちは。「本の変人」こと、Low calm(ロウカーム)です。 美味しい紅茶と読書をこよなく愛し、本業では約300人の会社で「ぼっち人事労務管理」をしています。

私のモットーは「あなたの時間を大切にすること」。 私自身、新卒1年目で難病(潰瘍性大腸炎)を宣告され、人生ハードモードで社会人生活がスタートしました。この経験から「人生の時間は有限である」と痛感しています。

だからこそ、本選びで失敗し、貴重な時間を無駄にすることが心底嫌いです。 このブログでは、年間150冊読む活字中毒者であり、FP2級の資格を持つ人事マンという視点から、「これは!」と確信した良書のみを紹介します。

さて、今回取り上げるのは、京極夏彦氏の『鵼の碑』。

京極堂(百鬼夜行)シリーズのファンが、実に17年も待ち焦がれた新作です。 まず、結論から申し上げます。

「この17年と、この分厚さ(1280ページ)に見合う価値はあったのか?」

答えは、「ありました。ただし、全員には勧めません」です。

これは「時間泥棒」であり、同時に「時間を豊かにする」劇薬のような一冊です。 本書は、ただの妖怪伝奇ミステリーではありません。これは「言葉」と「認識」で構築された、巨大な迷宮そのものです。

この記事では、ネタバレを一切せずに、以下の点について深掘りしていきます。

  • この記事でわかること
    • 『鵼の碑』が、あなたの貴重な時間を投じるに値する一冊かどうかの判断基準
    • 1280ページを読み切る「覚悟」の持ち方
    • 京極夏彦氏が17年かけて問いかけた「テーマ」の核心(の入り口)
  • 記事の信頼性
    • 年間150冊の読書量をこなし、イヤミスから純文学、ビジネス書まで読み漁る私(Low calm)が、「時間の無駄」にならなかったかを徹底的にジャッジします。
    • 人事労務として日々「人の理不尽」と向き合い、FPとして「人生設計」を考える視点から、本書の奥深さを解説します。
  • この記事を読むとどうなるか
    • あなたは、この「日本一(?)読むのに時間がかかるミステリー」に挑戦すべきか、あるいは賢明にも「今はやめておく」べきか、確信を持って決断できるようになります。

あなたの「大切な時間」を無駄にさせないための、正直な書評です。 もしあなたが「17年」という時間の重みに興味があるなら、ぜひ最後までお付き合いください。


📖グッときたところベスト3(ネタバレなし)

この「レンガ」のような本を読み終えた今、私が最も心を揺さぶられたポイントをランキング形式で紹介します。これはプロットの核心ではなく、あくまで私が「人事労務」として、そして「一人の人間」として共鳴した部分です。

【第3位】「場所」に憑く、どうしようもない不安の空気

京極作品の魅力は、その圧倒的な「不穏」の構築にあります。

本作も例外ではありません。物語は複数の視点、複数の場所で同時多発的に進んでいきます。日光、木更津、宇都宮……。一見、何の関係もない場所で起こる不可解な出来事。

これが、なかなか合流しないのです。

読者は、どこに連れて行かれるかわからないまま、ただただ重苦しく、湿った空気が充満する「現場」に立ち会わされます。

これは、人事の仕事で体験する「嫌な予感」によく似ています。 例えば、特定の部署だけ「退職率」が異常に高い、あるいは「メンタル不調者」が続出する。しかし、ヒアリングしても「特に問題ない」という返答しか返ってこない。

問題が「人」にではなく、その「場所」や「構造」に憑いているかのような、あの不気味な感覚。

『鵼の碑』は、その「場所」に染み付いた「何か」の正体を、じわじわと炙り出していきます。この序盤の「何が起こっているのか全くわからない」という不安感と焦燥感こそが、本作の第一の魅力ですT。

【第2位】登場人物たちの「どうしようもないズレ」

京極作品は、登場人物たちの「会話劇」が真骨頂です。 しかし、それは楽しいおしゃべりではありません。彼らの会話は、絶妙に「ズレて」います。

ある人物は、論理的に物事を解体しようとします。 ある人物は、感情的に目の前の現象を訴えます。 ある人物は、見ているのに「見えない」と言い張ります。

彼らは同じ日本語を話しているはずなのに、まるで通じ合っていません。 これは、私たちの日常そのものではないでしょうか。

人事労務として、私は日々「労使交渉」や「面談」に立ち会います。 会社側は「規則」と「利益」を語り、従業員側は「感情」と「生活」を語る。どちらも間違ってはいない。しかし、見ている「現実」が違うのです。

『鵼の碑』の登場人物たちは、まさにこの「現実のズレ」に苦しみます。 自分が認識している「常識」が、音を立てて崩れていく。 自分の「正しさ」が、他人の「正しさ」によって脅かされる。

このコミュニケーションの不全と、それが生み出す悲劇性。 京極夏彦氏は、ミステリーという形を借りて、「他人と分かり合うとはどういうことか」という、途方もない問いを私たちに突きつけてくるのです。17年かけて、さらに重くなった問いを。

【第1位】京極堂による「解体」という名の憑き物落とし

そして、第1位は、これしかありません。 シリーズの主人公、京極堂(中禅寺秋彦)による、圧巻の「憑き物落とし」です。

これは、本作の終盤、全ての「ズレ」と「不安」が最高潮に達したときに訪れます。 京極堂は、超能力や魔法を使うわけではありません。 彼が使う武器は、ただ「言葉」「知識」です。

彼は、登場人物たちが「得体の知れない妖怪の仕業だ」と怯えていた現象を、膨大な知識と冷徹な論理で解きほぐしていきます。

「それは『鵼(ぬえ)』ではない。あなたがそう『認識』しているだけだ」 「あなたが『見ていなかった』のは、あなたが『見たくなかった』からだ」

複雑に絡み合った人間関係、歴史、土地の因習、個人のトラウマ。 それら全てを、彼は「言葉」によって仕分けし、再定義し、あるべき場所に戻していく。

このカタルシスは、他のミステリーでは絶対に味わえません。

なぜ、これが私に刺さるのか。 人事の仕事をしていると、「あの人、何かに憑かれているんじゃないか?」と思う瞬間に多々出くわします。

「自分は正当に評価されていない」という思い込みに憑かれたベテラン。 「会社は自分から搾取している」という被害者意識に憑かれた若手。 「前例がないから」という「規則」そのものに憑かれた管理職。

(もちろん、会社側に問題があるケースも山ほどありますが!)

これらはすべて、ある種の「呪い」であり、「憑き物」です。 私は人事として、そしてFPとして、彼らの「憑き物」を落としたい。 「あなたが固執しているその前提、本当に正しいですか?」 「その思い込みが、あなたの『有限な時間』を無駄にしていませんか?」

京極堂のように鮮やかにはいきませんが、私がやろうとしている仕事の本質は「憑き物落とし」なのだと、この『鵼の碑』を読んで改めて痛感させられました。

17年という歳月は、この「解体」のロジックを、より強固に、より複雑に、そしてより冷徹に進化させていました。この「解体ショー」を浴びるためだけに、1280ページを読破する価値が、間違いなくあります。

🧐どんな人におすすめなのか

私のモットーは「あなたの時間を大切にすること」。 したがって、この本を「誰にでも」勧めるつもりはありません。明確に、読む人を選びます。

おすすめな人(この「レンガ」に挑むべき人)

  1. 「結論」よりも「過程」を楽しめる人 「犯人は誰か?」だけを知りたい人には苦痛です。本書の魅力は、そこに至るまでの膨大な「会話」と「思考の迷路」です。迷うこと自体を楽しめる人に向いています。
  2. 哲学的な問答や、言葉の定義にワクワクする人 「認識とは何か」「見えるものと見えないものの境界は?」「言葉はどこまで現実を縛るのか」。こうした「答えのない問い」を延々と考えるのが好きな人には、最高の知的エンターテイメントです。
  3. 過去の京極堂シリーズ(特に『魍魎の匣』)が好きな人 言うまでもありません。17年間、この日を待っていたあなた。大丈夫です、京極堂は健在です。今すぐ読むべきです。ただし、絶対に『姑獲鳥の夏』から順番に読んでください。いきなり本作から入るのは、人生のハードモードをさらにハードにするようなものです。

おすすめしない人(あなたの時間を守るための判断)

  1. テンポの良い展開、スピーディーな解決を求める人 本書は「遅い」です。序盤は特に「何も起こらない」と感じるかもしれません。活劇やアクションを期待するなら、他の本を選んだ方が賢明です。
  2. 小難しい理屈や、長い会話劇が苦手な人 登場人物たちは、本当に、よく喋ります。しかも内容が小難しい。本を読んでリラックスしたい、スッキリしたいという気分の時には、絶対におすすめしません。
  3. 「妖怪」や「オカルト」が「本当に」出てくる話を期待する人 京極堂シリーズは、オカルトや妖怪を題材にしていますが、それらを「超常現象」として扱いません。すべてを「理屈」で解体します。ファンタジーを期待すると、真逆の読書体験になります。

📚著者のプロフィール、本の詳細

著者:京極 夏彦(きょうごく なつひこ)

  • 日本の小説家、妖怪研究家、アートディレクター。
  • 1994年、『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』でデビュー。同作から続く「百鬼夜行シリーズ(京極堂シリーズ)」は、妖怪伝奇とミステリーを融合させた独自の世界観で熱狂的なファンを生み出しました。
  • 特徴は、その圧倒的な分量と、本の「装丁」へのこだわり。文章だけでなく、本という「モノ」自体を作品として捉えている稀有な作家です。

本の詳細

  • タイトル: 『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』
  • 出版社: 講談社
  • ページ数: 1280ページ(単行本)
  • 発売日: 2023年9月14日
  • メディア化情報:
    • シリーズの他作品(『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』など)は、過去に映画化、漫画化、アニメ化されています。
    • しかし、本作『鵼の碑』は発売(2023年9月)からまだ日が浅いため、2025年11月の現時点では、メディア化(映画・アニメ・ドラマ等)はされていません。 この分量を映像化するのは、相当な覚悟が必要でしょうね。

🗣️X(旧Twitter)での口コミ・評判

Amazonのレビューは誰もが見るので、ここではX(旧Twitter)から、より「生」の声を拾ってみました。

良い口コミ

悪い・戸惑いの口コミ

やはり、「17年待った甲斐があった」という称賛と、「あまりにも重く、遅い」という戸惑いの声が二極化しています。 これは、本書が「ただのエンタメ」ではなく、「読書体験」そのものを問う作品である証拠です。


🏁まとめ:これは「読む」のではなく「登る」本だ

『鵼の碑』は、17年という歳月をかけて築かれた、巨大な「碑」であり「迷宮」です。

最後に、私(Low calm)が本書から得た「変化」を共有して、この記事を締めくくります。

本書を読み終えた今、私は「『時間のかかること』の価値」を再認識しています。

現代は「タイパ(タイムパフォーマンス)」の時代です。 動画は倍速で視聴され、ビジネス書は「要約」で済まされます。私自身、FPとして「効率的な資産形成」を説き、人事として「生産性の向上」を追い求めています。

そんな時代に、1280ページ、17年待たされたこの本は、真っ向から「アンチ・タイパ」を突きつけてきます。

  • 第3位:場所の不安(効率化で切り捨てられた「空気」)
  • 第2位:会話のズレ(タイパ重視では理解できない「他人の認識」)
  • 第1位:憑き物落とし(時間をかけた「対話」と「解体」でしか解決できない問題)

これらはすべて、時間をかけなければ、決して見えてこないものです。

私は、難病(潰瘍性大腸炎)と付き合いながら、「有限な時間」をどう使うかを常に考えてきました。 だからこそ、「無駄な時間」は憎みます。

しかし、『鵼の碑』は、「無駄」と「豊かさ」は表裏一体であることを教えてくれました。 効率だけを求めていては、人の心に巣食う「憑き物」は落とせない。それは、人事労務の現場でも、自分自身の人生でも同じです。

あなたへのアクションプランです。

もし、あなたが今、何か「得体の知れない不安」や「理屈の通らない理不尽」に直面しているなら。 そして、京極夏彦という作家に「時間」を捧げる覚悟があるなら。

まず、『姑獲鳥の夏』から手に取ってください。 そして、この長大なシリーズを登る「登山」を始めてください。

『鵼の碑』は、その登山の「ご褒美」であり、同時に「新たな試練」です。 17年という重みは、あなたの「時間」に対する価値観を、間違いなく揺さぶるでしょう。

私、Low calmは、この本が「時間の無駄」でなかったことを、ここに断言します。 これは「読む」本ではなく、「体験」し「登る」本です。

あなたの「大切な時間」が、豊かな読書体験で満たされますように。


ブックカバー
Recommend
こちらの記事もどうぞ
記事URLをコピーしました