第174回直木賞候補作紹介|人生の「残り時間」をどの物語に預けるか
日々、給与計算や社保の手続きといった「数字」と「現実」に向き合っていると、ふと、もっと深い人間の営みに触れたくなる瞬間があります。 「人生は一度きりで、時間は有限だ」ということを、私は病を経験した時に痛いほど学びました。だからこそ、優れた物語に触れる時間は、私にとって最も贅沢な投資です。
今回の直木賞候補作は、歴史の深淵から現代の生きづらさまで、実に多彩な顔ぶれが揃いました。
結論:この記事は「読む価値」ある?
- こんな気分向け
今の自分にぴったりの「一冊」を選びたい時 - 読むと得られるもの
今、日本の文学界で最も「熱い」物語の輪郭 - Low calmの判定
「時間投資の価値アリ(どの作品も、読者の時間を裏切らない密度を持っています)」

第174回直木賞 候補5作品のあらすじ
1. 嶋津 輝『カフェーの帰り道』(東京創元社)
あらすじ: 舞台は100年前、大正から昭和にかけての上野。あまり流行っていない「カフェー西行」で働く、個性豊かな女給たちの人生を描いた短編集です。夢二風の化粧をする者、小説家を目指す者、嘘をつき続ける者……。彼女たちが何を思い、なぜそこを去っていったのか。静かですが、確かな生きた証が刻まれています。
- Low calmの視点
「100年前の労働環境や女性の生き方」を、人事の目線で見つめ直す面白さがありました。単なるノスタルジーではなく、現代にも通じる働く女性の葛藤が描かれています。
2. 住田 祐『白鷺(はくろ)立つ』(文藝春秋)
あらすじ: 天明の大飢饉の爪痕が残る比叡山。高貴な血を引きながら、訳あってその身を隠して生きる二人の僧侶の物語です。失敗すれば死、という過酷な修行「千日回峰行」に挑む彼らは、互いに憎しみ合いながらも、歴史に名を残すことを渇望します。人間の業と野心が渦巻く、圧倒的な歴史小説です。
- Low calmの視点
「何者かになりたい」という執念は、時に人を狂わせます。FPとして将来の安泰を考える私には、彼らの命を賭けた投資の凄絶さが、ひどく美しく、そして切なく映りました。
3. 大門 剛明『神都(しんと)の証人』(講談社)
あらすじ: 昭和18年、戦時下の伊勢(神都)で起きた一家惨殺事件。死刑判決を受けた男の冤罪を信じ、再審請求に挑む弁護士とその家族を、戦前から令和まで三代にわたって描いた大河リーガルミステリーです。司法の壁、国家の理不尽、そして受け継がれる正義の襷(たすき)。
- Low calmの視点
人事の現場でも「事実」と「感情」の板挟みになることは多いですが、この物語が描くのは、もっと巨大な社会の歪みです。これほど壮大な物語に浸る時間は、極めて贅沢な体験だと言わざるを得ません。
4. 葉真中 顕『家族』(文藝春秋)
あらすじ: 実際に起きた「尼崎連続変死事件」をモチーフにした、震撼の社会派ミステリー。血の繋がりがない人々が「擬似家族」を作り上げ、その中で凄惨な支配と洗脳が繰り返されていく。なぜ彼らは逃げられなかったのか。家族という病理と、民事不介入という法の死角を鋭く突いています。
- Low calmの視点
難病を患った時、私を支えたのも家族でした。しかし、この本が描くのは愛の皮を被った暴力です。あまりに重いテーマですが、人間関係に疲れた時こそ、この「毒」を直視する勇気が必要かもしれません。
5. 渡辺 優『女王様の電話番』(集英社)
あらすじ: 不動産会社を辞め、SMデリバリーの「電話番」として働く主人公・志川。彼女は自分が「他人に性的な関心を抱かない(アセクシャル)」のではないかと悩みながら、個性的な女王様たちに囲まれて働いています。ある日、憧れの女王様が失踪し、彼女を探す旅が始まります。多様な性の在り方を問う物語。
- Low calmの視点
多様性が叫ばれる昨今ですが、人事担当としても、本作の視点にはハッとさせられました。誰もが「普通」という枠に収まろうとする中で、自分の居場所を見つけようとする志川の姿に、静かな共感を覚えます。
どんな人におすすめなのか
✅ おすすめな人(時間を投資すべき人)
- 世の中の「不条理」や「人間の深淵」をじっくり味わいたい人
- 歴史の大きなうねりの中に、個人の尊厳を見出したい人
- 自分のアイデンティティや生き方に、小さな疑問を感じている人
🚫 おすすめしない人(ミスマッチの可能性)
- 短時間で結論や「スカッとする結末」だけを求める人
- 感情を揺さぶられるような重厚な物語が、今は辛いと感じる人
まとめ:あなたの「時間」を投資する価値はあるか
直木賞の選考は、これから始まります。 どの作品が受賞するかを予想するのも楽しいですが、まずは自分自身の直感を信じて、一冊を手に取ってみてください。
私は今夜、冷めかけた紅茶を淹れ直し、『カフェーの帰り道』をもう一度開こうと思います。百年前の彼女たちが感じた風を、この静かな部屋で共に感じたいからです。
あなたの冬の夜が、素晴らしい物語で満たされますように。


