『君の膵臓をたべたい』
「ああ、あの映画の原作ね」「どうせお涙頂戴の青春モノでしょ?」
そう思ったあなたにこそ、この記事を読んでいただきたい。 正直に告白します。私もそう思っていました。ミステリ、特にイヤミス(読後感が最悪なミステリ)や純文学を好む私にとって、これほど「ベタ」なタイトルとあらすじは、最も避けてきたジャンルです。
しかし、なぜ今さら私がこの本を手に取り、こうして紹介記事を書いているのか。 それは、この物語が「ベタ」という言葉で片付けられるほど、単純なものではなかったからです。むしろ、ひねくれた大人にこそ刺さる「本質」が隠されていました。
この記事では、年間150冊の活字中毒者である私が、ネタバレなしで『君の膵臓をたべたい』の核心に迫ります。
この記事から得られること
- なぜ『キミスイ』がただの「泣ける話」ではないのか、その理由
 - ひねくれた読書家(私)が心を掴まれた「グッときた」ポイント
 - あなたがこの本を読むべきか否かの、正直な判断基準
 
この記事を読み終える頃、あなたは「『キミスイ』を読んでみようか」と思うか、あるいは「やはり自分には合わないな」と確信するか、どちらにせよ「本選びの失敗」を回避できるはずです。あなたの貴重な時間を、私が守ります。
☕️ Low calmが選ぶ「グッときた」ところベスト3
私が「この本は時間の無駄ではなかった」と確信した、心を揺さぶられた箇所をランキング形式で紹介します。もちろん、物語の核心に触れるネタバレは一切ありません。
【第3位】「カテゴライズ」を拒否する、二人の関係性
私たちは、安心するためにあらゆるものに「名前」をつけたがります。
「友達」「親友」「恋人」「同僚」。
本業で人事労務の仕事をしていると、その傾向をより強く感じます。「正社員」「契約社員」「優秀な人材」「課題のある人材」。人は肩書きや属性で分類され、その枠組みの中で評価されます。
しかし、この物語の主人公である「僕」と「山内桜良」の関係は、そうした既存のどのカテゴリーにも当てはまりません。
【グッときた引用(要約・言い換え)】 「僕たちは、友達でも恋人でもない。その言葉で呼ぶには、何かが違う」
彼らは、お互いの関係性を無理に定義しようとしません。周囲から見れば奇妙に映るその距離感を、二人だけは「そういうもの」として受け入れている。
私たちは、名前のない関係に不安を覚えます。しかし、本当に大切な関係性というのは、既存の言葉で括られた瞬間に、その本質の一部がこぼれ落ちてしまうのではないでしょうか。
彼らが築いた「名前のない関係」の尊さ。社会の物差しや分類(カテゴライズ)では測れない、個人と個人の純粋な結びつき。その危うさと美しさに、まず心を掴まれました。
【第2位】「死」ではなく「生」に焦点を当てる、桜良の強さと弱さ
本書は、ヒロインの「死」が前提にある物語です。 この手(・・・)の作品は、ともすれば「可哀想なヒロイン」と「それに寄り添う主人公」という感傷的な構図に陥りがちです。
しかし、山内桜良は、私たちが想像する「余命宣告を受けた悲劇のヒロイン」像を軽やかに裏切ります。彼女は「共病文庫」という秘密の日記を綴りながらも、あくまで「日常」を生きようとします。
「私は、私が死ぬまでの時間を、私のものとして生きたい」
彼女は病気を盾に同情を買ったり、絶望に打ちひしがれたりする姿を(少なくとも「僕」の前では)見せません。むしろ、正反対の性格である「僕」を強引に巻き込み、自分の「やりたいことリスト」を実行していきます。
その姿は、一見すると無邪気で、残酷にさえ映るかもしれません。
しかし、読み進めるうちに気づかされます。彼女のその振る舞いこそが、「死」から目を背けるためではなく、「生」を真正面から掴み取ろうとする、必死の抵抗であり、最大の勇気であることに。
私たちは皆、例外なく「いつか死ぬ」存在です。しかし、その「いつか」が具体的な日付として突きつけられた時、人はどう振る舞えるのか。
彼女の強さと、その裏に隠された計り知れない恐怖と弱さ。そのアンバランスな人間らしさが、読者の胸を強く打ちます。これは「死」の物語ではなく、紛れもない「生」の物語なのだと確信した瞬間でした。
【第1位】タイトルの「本当の意味」が明かされる瞬間のカタルシス
私が本書を敬遠していた最大の理由。それは、この『君の膵臓をたべたい』という、あまりにもセンセーショナルで、ややもすれば悪趣味にさえ聞こえるタイトルでした。
ミステリ好きの性(さが)でしょうか。私はタイトルを「最大の伏線」として読み解く癖があります。このタイトルには、どんな意味が隠されているのか。
「私は、君になりたい」
物語の終盤、この衝撃的なタイトルに込められた「本当の意味」が明かされます。 それは、私が想像していたようなグロテスクなものでも、単なる比喩表現でもありませんでした。
それは、他者と関わることを拒絶してきた「僕」と、他者との関わりによってしか自分を確認できなかった「桜良」という、正反対の二人が出会ったからこそ生まれ得た、あまりにも切実で、純粋な「祈り」でした。
「愛してる」という百万回使い古された言葉よりも、遥かに強く、遥かに深く、魂の結びつきを表現する言葉。
最初は違和感しかなかったこのタイトルが、読み終えた時、世界で最も美しく、最も切ない告白の言葉として胸に響くのです。
この見事な伏線回収と、言葉の意味が反転するカタルシス。 「やられた」と思いました。ひねくれたミステリ好きの私でさえ、この構成力と着地点には唸るしかありません。これこそが、本書が単なる「泣ける話」で終わらない、文学的な強度を保っている理由です。
📖 本書をおすすめしたい人・しない人
私の独断と偏見、そして人事労務という「人」を見る仕事の視点から、この本がどんな人に「刺さる」か、あるいは「時間の無駄」になってしまうかを正直に切り分けます。
おすすめな人 3パターン
- 「どうせ泣ける話でしょ?」と青春小説を敬遠している、ひねくれた大人
- まさに過去の私です。そういう人ほど、第1位で挙げた「タイトルの意味」にやられます。王道に見せかけて、その実、非常に巧みな仕掛けが施されています。
 
 - 人間関係に「名前」をつけたがる癖がある人
- 友人、恋人、同僚…そうした既存の枠組みに当てはまらないと不安になる人。彼らの「名付け得ない関係」は、人との繋がりの本質が「定義」することにあるのではないと教えてくれます。
 
 - 最近、心が乾いていて、良質な感動で涙を流したい人
- 「お涙頂戴」は嫌いでも、「本質的な感動」は求めている人へ。本書の涙は、同情や憐憫(れんびん)から来るものではありません。二人が懸命に「生きた」結果に対する、温かくも切ない涙です。
 
 
おすすめしない人 3パターン
- 何があっても「死」が関わる物語は絶対に読みたくない人
- 本書は「死」を前提としていますが、それをどう「生きる」かに焦点を当てています。とはいえ、人の死を扱うこと自体が苦手な方には、やはりおすすめできません。
 
 - 主人公の(序盤の)ウジウジした性格に耐えられない人
- 主人公の「僕」は、意図的に他者との関わりを断っています。その達観したような、あるいは単に卑屈なモノローグが続く序盤は、人によってはストレスを感じるかもしれません。
 
 - 展開の「リアリティ」や「整合性」を何よりも重視する人
- 物語には、ご都合主義と取れるような「偶然」や、やや現実離れした設定も含まれます。それを「物語の必然」として受け入れられないと、冷めてしまう可能性があります。
 
 
📚 本の基本情報(目次・著者)
目次
本書は文庫版において、明確な章タイトル(「第一章 〇〇」のような)は用いられておらず、章番号(一、二、三…)と「エピローグ」によって物語が構成されています。 これは、物語が淡々と、しかし確実に進んでいく様を効果的に演出しています。
出典参照元:
- 双葉社 公式サイト(https://www.futabasha.co.jp/)
 
著者プロフィール
住野 よる(すみの よる)
- 高校時代より執筆活動を開始。
 - 2015年、本作『君の膵臓をたべたい』でデビュー。同作は2016年「本屋大賞」第2位に選ばれ、累計部数300万部を超える大ベストセラーとなり、実写映画・劇場アニメ化もされました。
 - 他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『青くて痛くて脆い』など、多数。
 
本の詳細
- タイトル: 君の膵臓をたべたい
 - 著者: 住野 よる
 - 出版社: 双葉文庫
 - 文庫発売日: 2017年4月27日
 - ページ数: 328ページ
 - メディア化: 実写映画(2017年)、劇場アニメ(2018年)
 
🗣️ 世間の口コミ(X・レビューサイトより)
X(旧Twitter)や各種レビューサイト(読書メーター、Filmarksなど)では、当然ながら賛否両論の意見が見られます。Amazonのように誰もが見る場所以外の、よりコアな読書家の声を集めてみました。
良い口コミ
「元々ドラマ・小説・映画・漫画見ても泣かない人間だったけど、これ見て涙腺覚醒した笑」
「知名度は非常に高く、ありきたりの病の恋愛小説かと思って、正直ずっと敬遠してました。読んだあと、しばらく余韻に浸って、動けませんでした。」
「タイトルの伏線回収が気持ちの良い。予想外の展開が後半続き、良い意味で裏切られたが、満足のいく終わり方だったので、全て良し。」
やはり、「泣ける」という感想は鉄板ですが、それ以上に「敬遠していたのに、読んだらやられた」「タイトルの意味に感動した」という、期待値を良い意味で裏切られたという声が目立ちます。
悪い口コミ
「中高生向け。(中略)プライドだけ一丁前の根暗男子による語りが本当に痛々しくてきつかった」
「感動ポルノ路線物語は地雷原だったが、(中略)挑戦したがやはり受け付けず吐いてしまった。」
「なぜ彼女が彼に興味を持ったのかというところがいまいち腑に落ちなかった」
「現実味の薄いストーリーには、好き嫌いが分かれそうなところ。」
否定的な意見としては、「主人公の性格に共感できない」「泣かせようとする意図(感動ポルノ)が透けて見える」「設定に現実味がない」といった点が挙げられます。これらは、私が「おすすめしない人」で挙げた内容とほぼ一致します。
🍀 まとめ:なぜ「本の変人」はこの本を薦めるのか
今回、私は『君の膵臓をたべたい』という、最も手を出さなかったであろうジャンルの本を紹介しました。
私が心を動かされた「グッときたところベスト3」を振り返ると、
- 第3位:カテゴライズできない関係性
 - 第2位:「生」への強烈な意志
 - 第1位:タイトルの意味が反転するカタルシス
 
これらはすべて、「人は記号や属性(カテゴリー)ではなく、個人としてどう生き、どう他者と関わるか」という問いに繋がります。
人事労務の仕事をしていると、人を「スペック」や「属性」で判断しがちです。しかし、この物語は、そんな無味乾燥な世界に冷や水を浴びせてくれます。
「僕」と「山内桜良」。 彼らは「クラスメイト」という属性を超え、「病気の少女」と「孤独な少年」という記号を超え、ただの「君」と「僕」として出会い直しました。そして、その関係性に「君の膵臓をたべたい」という、二人だけの言葉を与えました。
もしあなたが今、毎日を「属性」や「役割」(会社員、母親、学生…)として生きることに少し疲れているのなら。 もしあなたが、ひねくれた心を揺さぶるような「本質的な感動」を求めているのなら。
この本は、あなたの時間を無駄にはしない「失敗しない一冊」です。 読み終えた時、あなたもきっと、誰かに向かって「君の膵臓をたべたい」と伝えたくなるはずです。その言葉が持つ、本当の意味を知るために。

