『可燃物』(米澤穂信)感想|あなたの「理想」は燃やされる。群馬在住のぼっち人事が読む警察小説【ネタバレなし】
結論:あなたの「正しさ」は、組織の「可燃物」ですか?
いきなり結論から参りましょう。あなたの貴重な時間を無駄にはさせません。
この本は、「買い」です。
ただし、すべての人に手放しでおすすめするわけではありません。これは、組織の中で「正しさ」を追求しようとして、孤独を感じたことがある人間にこそ突き刺さる、ビターで冷徹な「お仕事小説」でした。
もしあなたが、『ハイキュー!!』の日向翔陽や『MAJOR』の茂野吾郎のような、熱血と友情で壁をブチ破る物語を求めているなら、今すぐブラウザを閉じてください。時間の無駄になります。
この物語にいるのは、ヒーローではありません。組織の論理と現実の壁に直面し、淡々と職務をこなす「仕事人」です。
この記事でわかること(あなたの時間投資の対価)
- この記事を読めば:あなたが『可燃物』に貴重な時間を投資すべきか、最短5分で判断できます。
- 記事の信頼性:年間150冊の活字中毒者であり、現役で「組織の理不尽」と格闘する人事労務(兼FP2級)の私が、舞台となった群馬から生々しい感想をお届けします。
- 記事の概要:特に心を抉られた「グッときたところベスト3」、どんな人に向いているか(いないか)、X(旧Twitter)での口コミ、そして著者情報。
- 読んだ後のあなた:読み終えた時、あなたは「自分の仕事の理不尽さ」を客観視し、明日からもう少しだけ冷静に、組織というシステムと向き合えるようになっているはずです。
☕ ぼっち人事が選ぶ「グッときたところ」ベスト3
小説ですので、核心的なネタバレ(犯人やトリック)は一切しません。その代わり、この物語が「なぜ」私の心に刺さったのか。人事労務としての視点を交えながら、深く、しつこく語らせてください。
第3位:「群馬」という舞台設定の、恐ろしいまでの“解像度”
本書の舞台は、群馬県警。 私も同じ群馬県で、日々パソコンと就業規則を相手に戦っています。
作中には「太田市」や「利根警察署」といった、地元民なら「ああ、あそこね」と地図が思い浮かぶ地名が、ごく自然に登場します。
グッときた箇所(要約) 物語は、太田市の住宅街で起きた連続放火事件や、利根のスキー場で見つかった遺体など、群馬の具体的な地名を背景に展開される。
これが、ただの「ご当地小説」で終わらないのが米澤穂信氏の凄みです。
東京のような大都会ではなく、かといってド田舎でもない。「地方都市・群馬」という絶妙なリアリティラインが、事件の「生々しさ」を際立たせるのです。
私が毎日車で通る国道沿いの風景。そのすぐ裏で、こんな「どうでもよくない」事件が起きているかもしれない。この「地続き感」は、群馬在住の読者として、背筋が冷えるような面白さでした。
(余談ですが、群馬のグルメスポットは一切出てきません。観光気分で読むと火傷しますよ)
第2位:主人公・葛(かつら)警部の「正しさ」ゆえの“孤独”
私が本書を手に取る前、主人公は警察学校を出たての新人(『可燃物』のように理想を燃やされる若者)だと思い込んでいました。
全く違いました。
主人公は、群馬県警捜査一課の葛(かつら)警部。 すでに「葛班」というチームを率いるリーダーであり、管理職(あるいはそれに近い立場)です。
彼は、決して『MAJOR』の吾郎のような熱血漢ではありません。 むしろ、冷徹。 その態度は上司から疎まれ、部下からも「良い上司」とは決して思われていません。
この姿、私には痛いほどわかります。 「ぼっち人事」として、私は会社(組織)を守るため、「就業規則」や「労働基準法」という「正しさ」を盾に仕事をします。 「それはルール違反です」 「前例がありません」 「給与計算をミスったら人生が終わるんです」
この「正しさ」は、現場の「まあまあ、いいじゃない」という空気や、経営層の「臨機応変に」という鶴の一声と、常に対立します。
葛警部が「正しさ(真相)」を追求すればするほど、組織の「和」や「効率」が乱される。だから彼は疎まれる。 ああ、わかる。わかりすぎる。 彼の「正しさ」ゆえの孤独は、管理部門で働く人間にとって他人事ではありません。
第1位:組織という「システム」が、理想を“処理”していく冷徹さ
そして、第1位がこれです。 本書は「警察ミステリー」ですが、同時に最高の「組織論」でもあります。
新人時代、私も難病(潰瘍性大腸炎)を宣告され、社会人生活がハードモードでスタートしました。 「普通に働きたい」 「誰かの役に立ちたい」 そんな理想は、現実(体調)と、そして「普通」を求める組織の論理の前に、何度も燃やされかけました。
『可燃物』の世界では、葛警部が追い求める「事件の真相(=個人の正義)」が、組織を維持するための「合理性(=組織の正義)」によって、まるでゴミ(可燃物)のように処理されそうになるのです。
葛警部を阻む上司たちも、決して無能な「悪」ではありません。彼らは彼らで「組織を守る」という正義を全うしている。
正義と正義がぶつかる時、何が「可燃物」として捨てられるのか。
この、どちらかが絶対悪ではない「イヤミス」にも通じる構造こそ、米澤穂信氏の真骨頂。現役の人事労務として、この解像度の高さには脱帽するしかありませんでした。
どんな人におすすめなのか
この本は、間違いなく人を選びます。あなたの貴重な時間を守るため、私(Low calm)が「失敗しない」ためのガイドラインを引きます。
🙆♀️ こんな人におすすめ(買いです)
- 組織の「理不尽さ」に胃を痛めている、すべての中間管理職・会社員
- (特に私のような人事、総務、経理など、管理部門の「ぼっち」戦士に)
- 米澤穂信氏の「イヤミス」の切れ味や、『黒牢城』のような重厚なロジックを期待する人
- (スカッとはしません。じっとりとした納得感があります)
- 派手なアクションより、地道な捜査や資料の読み込みで真相に迫る「本格ミステリー」が好きな人
- (警察官僚体質のリアルな描写に興奮するタイプの人)
🙅♂️ こんな人にはおすすめしない(時間の無駄かも)
- 勧善懲悪、熱血ヒーローが活躍する「スカッと」する警察ドラマが見たい人
- (紅茶を飲んで一息つくような、優しい時間はありません)
- 仕事の疲れを癒やすため、優しく、心温まる物語を読みたい人
- (むしろ、仕事の疲れを思い出して胃が痛くなる可能性があります)
- 登場人物に強く感情移入して、一体感を味わいたい人
- (主人公・葛警部は、あえて感情が排されており、感情移入の「壁」が高いです)
著者プロフィールと本の詳細
ここで、著者と本の基本情報(いわば就業規則の「絶対的記載事項」)を押さえておきましょう。
著者:米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年、岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞しデビュー。 『氷菓』をはじめとする「〈古典部〉シリーズ」はアニメ化もされ、あまりにも有名ですね。私も大好きです。
『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、『満願』で山本周五郎賞、そして『黒牢城』では直木賞をはじめミステリーランキング4冠を達成するなど、現代日本ミステリー界のトップランナーの一人です。
本の詳細
- タイトル: 可燃物
- 著者: 米澤 穂信
- 出版社: 文藝春秋
- 発売日: 2023年7月25日
- ページ数: 320ページ
- ジャンル: 警察ミステリー、連作短編集(全5編)
- メディア化情報: 2025年11月現在、主要なメディア化(ドラマ化・映画化)の情報はありません。(「王様のブランチ」などで紹介はされています)
X(旧Twitter)での口コミ・評判
Amazonのレビューは誰もが見るので、私(Low calm)はX(旧Twitter)の「生の声」を重視しています。いくつかピックアップしました。
良い口コミ
米澤穂信「可燃物」読了。
— 青日 (@dokushodiary) November 12, 2025
最高に面白い。
葛警部が見抜く五つの事件の連作短編集。一話目から度肝を抜かれる。最初から飛ばしすぎでは?と思ったが、全ての話でその驚きや緊張感が途切れることはない。現実の厳しさが切ない。
私が読んだ米澤穂信作品の中で断トツで好みど真ん中。#寝読部 pic.twitter.com/7ZAPbMWnLM
米澤穂信「可燃物」
— Roku (@roku1653) October 27, 2025
硬派なミステリ短編集でとても面白かったです。2話目「ねむけ」から一気に引き込まれ、各話のレベルの高さに興奮と感動を覚えながら読了。いずれも痺れる展開ですごい!葛警部の活躍、まだまだ読みたいな。… pic.twitter.com/I12gbcPspC
悪い口コミ(または懸念)
絶賛されていたので楽しみにしていた警察ミステリー☺️面白かったけど、期待値が高過ぎたかも💦
— 小鳥谷スズ (@x7nrtElCBb2KLhu) February 13, 2025
なかでは命の恩は刺さったな。無償の優しさ、生涯の感謝と命の重さ。最初ナレーターさんの声が👂️合わなかったけど、崖の下、が終わる頃にはなんとか慣れた😅#読了#聴了#可燃物#米澤穂信#Audible pic.twitter.com/4O4sQ2Mu8O
#可燃物#米澤穂信#読了
— どすみ (@mochi_merumeru) February 10, 2025
私には刺さらなかったかな🤔
結構淡々と話が進んでいくから盛り上がり場所がよく分からなかった💦
あと、伏線も割と露骨なのが刺さらない原因かもしれない
このミス1位ということもあり、期待しすぎた感がある(ごめんなさい🙏)
好きな人は好きなのは分かった😌 pic.twitter.com/efd9T2S23z
やはり、「組織のリアルさ」「地味だが確実な推理」を評価する声と、「シンプルや」「淡々と物語が進む」という声に分かれる傾向がありますね。これは、本書が「本物」である証拠とも言えます。
まとめ:あなたの「正義」は、燃やさずにお持ち帰りください
『可燃物』は、群馬県警を舞台に、孤高の刑事・葛(かつら)警部が、組織の論理と対峙しながら難事件の真相に迫る、冷徹な警察ミステリーでした。
本書を読み終えた私は、ぼっち人事として明日もまた、就業規則と給与データとにらめっこするでしょう。 そこには葛警部のような「事件」はありませんが、「組織の論理」と「個人の事情」の板挟みという「戦い」は存在します。
もしあなたが今、会社や組織の理不尽さに「燃やされそう」になっているなら。 もしあなたの「正しさ」や「理想」が、組織の「可燃物」として処理されそうになっているなら。
本書を手に取ってみてください。 葛警部が、その冷徹な目で、あなたに「職務(仕事)とは何か」を問いかけてくるはずです。
あなたの大切な時間を、理不尽に燃やし尽くされる前に。 この一冊が、現実と戦うための「耐火材」となることを願って。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 あなたの「失敗しない一冊」選びの手伝いができたなら、幸いです。

