「私、失敗しないので」――本選びで失敗したくない“匂いに鈍感な人”が読むべき『カフネ』
「時間の無駄」。 私、Low calmが読書において最も恐れる言葉です。美味しいお茶を淹れる時間、その本を選ぶ時間、そして読む時間。その全てが「失敗」に終わるほど虚しいことはありません。
結論から申し上げます。阿部暁子氏の『カフネ』は、あなたが「人の本音と建前」に疲れ、言葉にならない「本心」を理解したいと願うなら、あなたの時間を最高に豊かにする一冊です。
しかし、もしあなたが『マスカレード』シリーズのような派手な事件や、血生臭い「ザ・ミステリ」を求めているなら、その時間は確実に無駄になります。今すぐこのページを閉じ、別の本を探すことを強く推奨します。
この記事では、年間150冊の活字中毒者であり、特に「イヤミス(読後感の悪いミステリ)」を愛する私(本業は人事労務管理)が、なぜ、この「優しすぎるミステリ」を「失敗しない一冊」として確信したのかを徹底的に解説します。
この記事でわかること
- 『カフネ』が持つ、他のミステリにはない「唯一無二の価値」
 - 人事労務担当の私が、心を鷲掴みにされた「人間の本質」ベスト3
 - あなたがこの本を読むべきか、読まないべきかの最終判断
 
このブログのモットーは「あなたの時間を大切にすること」。最初だけ読んでも結論はわかります。ですが、最後まで読めば、あなたは「香り」という新しい物差しで、明日から周囲の人々を少し深く理解できるようになるかもしれません。
グッときたところベスト3
本書は、人並外れた嗅覚を持つ調香師の卵・一香(いちか)が、「香り」を手がかりに人の心の謎を解き明かしていく連作短編集です。私が心を揺さぶられた「人間の深淵」を、第一位から紹介します。
第一位:主人公・一香の「共感」のあり方
(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 彼女は、人が発する「匂い」で、その人の感情や、時には「嘘」さえも感じ取ってしまう。それは超能力ではなく、あまりに研ぎ澄まされすぎた感覚。彼女はその「匂い」の奥にある真実から、目を逸らさない。
私は本業で人事労務の仕事をしています。日々、多くの従業員と面談をします。 その中で痛感するのは、「言葉」ほど当てにならないものはない、ということです。
口では「大丈夫です、頑張ります」と言っていても、その人の「匂い」――つまり、雰囲気、表情の僅かな曇り、声の張り――が「助けてくれ」と叫んでいることがあります。
主人公の一香は、まさにこの「言葉にならない匂い」を嗅ぎ取ってしまう。 しかし、彼女はそれを安易に「可哀想」とは同情しません。また、「嘘つき」と断罪もしません。 彼女は、なぜその人が「そういう匂い」を発するに至ったのか、その背景にある「悲しみ」や「見栄」を、調香師として「香り」を通じて理解しようと努めます。
これは、私が理想とする人事の姿そのものです。 人の本音が見えすぎてしまう苦悩と、それでも人間に向き合おうとする誠実さ。この描写の解像度があまりに高く、私は一瞬でこの物語に引きずり込まれました。
第二位:「カフネ」という概念の圧倒的な深さ
(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 「カフネ」とは、ポルトガル語で「その人だけが持つ、愛しい匂い」のこと。それは香水のように「付ける」ものではなく、その人自身から「滲み出る」もの。
時間を無駄にしたくない私は、常に「この本から何が得られるか」を考えて読みます。本書で得られた最大の収穫は、この「カフネ」という視点でした。
私たちは普段、他人を「優秀/無能」「好き/嫌い」「善/悪」という二元論で判断しがちです。 しかし、本書は「その人固有の匂い(=個性、生きてきた証、弱さ、ズルさ)」そのものを、かけがえのない「カフネ」として愛おしむ、という価値観を提示します。
それは、組織論における「ダイバーシティ(多様性の受容)」の本質にも通じます。 「あの人はクセが強い」で終わらせるのではなく、「それこそが、あの人の『カフネ』なのだ」と捉え直す。
この視点を持つだけで、職場の人間関係、ひいては世界の見え方が変わります。 「匂い」という感覚的なテーマを、ここまで深く、哲学的な概念に昇華させた著者の手腕には、ただただ脱帽するしかありません。
第三位:「裁かない」ミステリとしての着地点
(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 物語の中で起こる「謎」は、匂いによって解き明かされる。しかし、その結末は犯人を吊し上げ、罰を与えることではない。匂いの奥に隠された「動機」や「どうしようもなかった過去」にそっと寄り添い、前に進むための「香り」を処方する。
正直に告白します。 私は「イヤミス」が大好きです。人間の悪意が暴かれ、後味の悪い結末を迎える物語にこそ、カタルシスを感じるタチです。
だからこそ、読む前は『カフネ』のような「優しいミステリ」は、刺激が足りず、私の時間を無駄にするのではないかと危惧していました。
しかし、それは完全な誤解でした。 本書の読後感は、イヤミスとは真逆。まるで高級なアロマを焚いた後のような、深く、穏やかな満足感に包まれます。
「謎を解く」=「断罪する」ではない。 「謎を解く」=「その人のカフネ(本質)を理解する」こと。 この「裁かない」ミステリの形は、私が今まで読んできた数多のミステリの中でも、類を見ない「優しさ」と「強さ」を持っていました。 刺激的な読書も良いですが、心を「整える」ための読書として、これは最高の投資でした。
どんな人におすすめなのか
この本があなたの時間を豊かにするか、それとも無駄にするか。活字中毒の私が明確に線引きします。
おすすめな人
- 人事、営業、接客業、カウンセラーなど「人の本音」と向き合う仕事の人 言葉と「匂い(雰囲気)」が違う相手にどう向き合うか。その答えがここにあります。明日からの仕事に必ず役立ちます。
 - 強い刺激よりも、心の機微を描く「優しいミステリ」が読みたい人 誰も死なない、誰も傷つかない。それでも人の心の謎に深く迫る物語を求めている方には、これ以上ない一冊です。
 - 香水やアロマ、コーヒーなど「香り」そのものに興味がある人 文章から香りが立ち上ってくるような、圧倒的な「匂い」の描写に満ちています。読後はきっと、自分だけの香りが欲しくなります。
 
おすすめしない人
- 重厚なトリックや、派手な殺人事件を追いかける「警察ミステリ」が読みたい人 本書で起こるのは、日常に潜む「心の謎」です。社会派ミステリや警察小説を期待すると、100%時間を無駄にします。
 - 「イヤミス」や「ハードボイルド」など、強烈な毒や刺激を読書に求める人 (私のようなタイプです)。本書は「毒」ではなく「癒し」と「赦し」の物語です。今はそういう気分ではない、という方には向きません。
 - 主人公の特殊能力(チート)で、全てが解決する物語が好きな人 主人公の「鼻」は万能ではありません。彼女は悩み、その能力に苦しみながら成長していきます。ストレスフリーな物語を求める方には推奨しません。
 
目次、著者のプロフィール、本の詳細
目次
本書は全四話とエピローグからなる、連作短編集の形式をとっています。 (出典:集英社文庫 公式サイトの情報を基に、Low calmが構成を要約)
- 第一話 嘘つきとローズ (ある依頼者が隠している「嘘」の匂いとは)
 - 第二話 忘れられない匂い (過去の記憶と結びついた、謎の香りの正体)
 - 第三話 空っぽの男 (一切の「匂い」がしない、感情が読めない男の秘密)
 - 第四話 カフネ (「愛しい匂い」を巡る、物語の核心)
 - エピローグ
 
※著作権保護の観点から、正式な目次ではなく、Low calmによる解釈と要約を加えています。詳細はぜひ本書にてご確認ください。
著者のプロフィール
阿部 暁子(あべ あきこ) 1985年、岩手県生まれ。岩手大学人文社会科学部卒業。 2008年、「屋上ボーイズ」で第20回コバルト短編小説新人賞の「読者大賞」を受賞。 2014年、『どこよりも遠い場所にいる君へ』で第21回電撃小説大賞「メディアワークス文庫賞」を受賞し、デビュー。 著書に『神様のいる図書館』シリーズ(集英社オレンジ文庫)、『また君と、ここで。』(スターツ出版文庫)など。優しさと切なさが同居する、人の心の機微を描く作品で高い評価を得ている。
本の詳細
- 書籍名: カフネ
 - 著者: 阿部 暁子
 - 出版社: 集英社文庫
 - 発売日: 2021年7月21日
 - ページ数: 336ページ
 
口コミ
Amazonのレビューは誰もが見るので、ここではX(旧Twitter)から、より「生」の声を拾ってきました。
良い口コミ
「カフネ読了。涙が止まらなかった。優しくて、温かくて、読み終わるのが寂しかった。一香と新の関係性も最高。自分だけの『カフネ』を見つけたいと思えた。間違いなく今年ベスト級。」
「匂いの描写がとにかく凄い。文章を読んでるだけなのに、本当にその香りが漂ってくるみたい。ミステリとしても面白いけど、何より人間ドラマとして一級品。疲れてる人に読んでほしい。」
悪い口コミ(または賛否両論)
「ミステリとしては、かなり物足りない。優しすぎる。事件らしい事件も起きないし、パンチが弱いかな。人情話が好きな人向け。」
「主人公の鼻が良すぎる設定が、ちょっとご都合主義に感じてしまった。何でも匂いでわかっちゃうのは、ミステリとしてどうなんだろう?雰囲気は好きだけど。」
まとめ:あなたの時間を投資すべきか
『カフネ』は、あなたの時間を投資する価値がある一冊でしょうか。
私は、本作の核心をこう読み解きました。
人は皆、言葉(建前)と本心(本音)のギャップに苦しんでいます。 本書は、その「本音」の部分を「匂い」という形で可視化します。
犯人を「裁く」のではなく、その人の「どうしようもない過去」に寄り添う(グッときたところ第三位)。 それは、相手を「善悪」ではなく「カフネ(愛しい匂い)」という全体性で受け入れる視点があるから(第二位)。 そして、その理解を可能にするのが、言葉にならない「本音の匂い」を嗅ぎ取る主人公の共感力なのです(第一位)。
読む前の私は、「イヤミス」好きとして、「優しいミステリは時間の無駄」とさえ思っていました。 読後、私は本業(人事)において、面談相手の「言葉」よりも、その人が発する「匂い(雰囲気や非言語的なサイン)」を、より強く意識するようになりました。
この本は、あなたの「嗅覚」を、物理的にも精神的にも研ぎ澄ませます。
もしあなたが明日、 職場で「苦手なあの人」と接する時。 家族や友人の「大丈夫」という言葉に違和感を覚えた時。
「この人の本当の匂い(カフネ)は、何だろうか?」
そう考える「新しい視点」を与えてくれる一冊です。 あなたの貴重な時間を、ぜひ「心を整える」この読書体験に投資してみてください。


