『さよならジャバウォック』は時間の無駄か?伊坂幸太郎が仕掛けた巧妙な罠とは【ネタバレなし感想】
「本の変人」こと、Low calm(ロウカーム)です。 美味しいお茶と読書をこよなく愛し、年間150冊ほどの本を読み漁っています。
このブログのモットーは「あなたの時間を大切にすること」。 私自身が「この本、読む価値あったかな……」と後悔する、「本選びの失敗」を心底嫌っています。
だからこそ、私が「これは!」と確信した良書だけを、その理由と共に正直にお届けします。
今回ご紹介するのは、伊坂幸太郎氏のデビュー25周年記念作品『さよならジャバウォック』(双葉社)です。
伊坂作品といえば、軽妙な会話劇、伏線の見事な回収、そして独特の浮遊感が魅力です。しかし、時にその独特さが「難解だ」「肌に合わなかった」という声を生むことも事実。
あなたにとって、この『さよならジャバウォック』は「読むべき一冊」なのか、それとも貴重な時間を奪う「失敗の一冊」になってしまうのか。
この記事を読めば、それが明確にわかります。
この記事でわかること
- 年間150冊読む「本の変人」が、本作のどこに最も心を掴まれたのか(グッときたベスト3)
 - あなたが本書を読むべきか、避けるべきかの最終判断(おすすめな人・しない人)
 - ネット上のリアルな評価(X(旧Twitter)から厳選した口コミ)
 
この記事の信頼性
私は単なる読書家ではなく、本業では人事労務管理の仕事をしています。日々、人の「建前」と「本音」、「言葉の裏に隠された意図」と向き合っています。
そんな「人の嘘」や「組織の理不”尽」に敏感な私が、伊坂幸太郎氏が仕掛けたこの巧妙な「罠」をどう読み解いたのか。ミステリ好き、特にイヤミス(読後感の悪いミステリ)を好む私の視点で、徹底的にレビューします。
この記事を読み終えた時、あなたは『さよならジャバウォック』という物語の「本当の価値」を知り、自分がこの本に時間を投資すべきか、自信を持って決断できるようになっているはずです。
もちろん、あなたの読書の楽しみを奪うネタバレは一切ありません。 安心してお読みください。
『さよならジャバウォック』:グッときたところベスト3
では早速、私が本作のどこに心を掴まれ、時間を忘れて没頭したのか。 最も「グッときた」箇所をランキング形式で紹介します。
第3位:日常に潜む「違和感」と、軽妙さの裏に隠された「毒」
伊坂作品の魅力の一つに、登場人物たちの「一見、無駄に思える会話劇」があります。本作でもその魅力は健在ですが、いつもと少し様子が違います。
【グッときた箇所】 (※ネタバレ防止のため、具体的な会話の引用は避けます)
物語は「量子」という女性が夫を殺してしまった、という衝撃的な場面から始まります。パニックになる彼女の元に、大学時代の後輩「桂凍朗」が訪ねてくる。この二人の会話が、どこかズレているのです。
緊迫した状況のはずなのに、妙に冷静だったり、哲学的な問答が始まったりする。この「ズレ」こそが、本作の第一の「グッときた」ポイントでした。
【なぜ選んだか:人事労務の視点から】
私は仕事柄、多くの面接や面談に立ち会います。人が緊張したり、何かを隠したりしている時、その言動には必ず「ズレ」が生じます。
「志望動機は立派なのに、なぜか目が泳いでいる」 「退職理由は円満だと言い切るのに、前職の話になると声のトーンが落ちる」
こうした日常の小さな「違和感」こそが、真実にたどり着くための最大のヒントです。
『さよならジャバウォック』の会話は、まさにそれでした。 一見、伊坂作品らしい軽妙なやり取りに見えて、その実、全ての言葉に「毒」と「棘」が仕込まれている。読者である私は、この「違和感」の正体を知りたくて、ページを繰る手が止まらなくなりました。
ただの会話劇で終わらせない。日常会話に巧妙なミステリの仕掛けを施す、その手腕にまず唸らされました。
第2位:「もう一つの物語」がもたらす、現実と虚構の境界線
本作は、主人公「量子」の視点と、もう一つの別の視点(「斗真」や「北斎」といった人物が登場するパート)が、交互に描かれていきます。
【グッときた箇所】 (※ネタバレ防止のため、詳細は伏せます)
量子のパートが「夫の死体をどうするか」という現実的(?)なサスペンスであるのに対し、もう一つの物語は、どこか浮世離れした、それこそ『鏡の国のアリス』のような不思議な世界観で進んでいきます。
「この二つの物語、どう関係があるんだ?」 「まさか、どちらかが現実で、どちらかが夢……?」
この二つの物語が交錯する構成が、私を強烈に揺さぶりました。
【なぜ選んだか:物語に「迷い込む」感覚】
私はミステリの中でも、特に「イヤミス」が好きです。なぜなら、人間の心の暗部や、信じていたものが崩れ去る瞬間にこそ、強烈な「リアル」を感じるからです。
しかし本作は、イヤミスとはまた違うアプローチで私の「リアル」を揺さぶってきました。
量子のサスペンスパートで現実感覚を掴んだかと思うと、次の章では非現実的な世界に放り込まれる。この強制的な視点の切り替えによって、読んでいる私自身の足場がぐらついていくのです。
「今、自分はどっちの世界を読んでいるんだ?」 「信じていいのは、どっちの語り手だ?」
この「迷子になる感覚」こそ、伊坂幸太郎氏が『不思議の国のアリス』に出てくる怪物「ジャバウォック」というタイトルを冠した理由なのでしょう。
現実と虚構の境界線を曖昧にさせ、読者を物語の「ワンダーランド」に引きずり込む。この構成力は、まさに「圧巻」の一言です。
第1位:「それ」が「ジャバウォック」だったのか、という驚愕
そして第1位は、やはりこれ以外にありません。 全ての「違和感」と「二つの物語」が収束する、あのラストです。
【グッときた箇所】 (※絶対にネタバレ厳禁のため、一切の内容に触れません)
ただ一言。「やられた」と。 そして、「それ」が「ジャバウォック」だったのか、と。
【なぜ選んだか:「騙される快感」の極致】
年間150冊も読んでいると、正直なところ、大抵のミステリの仕掛けは中盤で予想がついてしまいます。「この人が犯人だろう」「この伏線はこう回収されるな」と。
しかし、『さよならジャバウォック』は、私のその浅はかな「予測」を、木っ端微塵に打ち砕いてくれました。
第3位で挙げた「会話のズレ」。 第2位で挙げた「二つの物語の交錯」。
それら全てが、このラストたった一点のために、緻密に計算され尽くした「罠」だったのです。
読み終えた瞬間、私は呆然としました。そして、すぐに冒頭のページに戻りました。 「ああ、ここも!」「これも!」「全部仕込まれていたのか!」
この感覚こそ、私が本を読む理由です。 「時間の無駄だった」と感じる読書を最も嫌う私が、この本に費やした時間によって得られた「驚愕」と「快感」は、計り知れません。
この「騙される快感」は、間違いなく一級品です。伊坂幸太郎氏のデビュー25周年にふさわしい、渾身の一撃でした。
どんな人におすすめなのか
私の「グッときたベスト3」を踏まえ、本作が「あなたの時間を豊かにする一冊」になるか、それとも「あなたの時間を無駄にする一冊」になるか、具体的に提示します。
⭕️ 特におすすめしたい人(3パターン)
- 「騙される快感」を心から楽しみたい人 「どうせミステリなんて」と斜に構えている読書家ほど、本作の罠にハマってほしい。読み終えた後の「やられた!」という感覚は、最高の読書体験になることを保証します。
 - 伊坂幸太郎氏の「会話劇」と「伏線回収」が好きな人 本作は伊坂ワールド全開です。ただし、いつもの軽妙さに加えて、独特の「違和感」と「毒」がスパイスとして効いています。いつもの伊坂作品が好き、かつ、新しい刺激も欲しいという方に最適です。
 - 現実と虚構が入り混じる、幻想的な物語が好きな人 『鏡の国のアリス』がモチーフの一つになっている通り、物語は時に非現実的な領域に踏み込みます。ロジックだけで割り切れない、夢の中を彷徨うような不思議な読後感を求めている人には、ドンピシャで刺さるはずです。
 
❌ おすすめしない人(3パターン)
- 時系列が明確で、ストレートな物語を読みたい人 本作は視点が頻繁に切り替わり、時間軸も意図的にずらされています。その「混乱」自体が作品の核であるため、分かりやすい一本道のストーリーを求める人には、ストレスになる可能性が高いです。
 - SF的な要素や、非現実的な設定が苦手な人 (詳細はネタバレになるため伏せますが)物語には、現実のルールから逸脱したような描写が含まれます。リアリズムをとことん追求するタイプのミステリが好きな方には、合わないかもしれません。
 - 「読後、とにかくスッキリ爽快になりたい!」という人 伏線は鮮やかに回収されますが、その読後感は「爽快!」の一言では片付けられません。むしろ、少し考え込んでしまうような、不思議な余韻が残ります。スカッとするエンタメだけを求めている時は、避けた方が賢明です。
 
本の詳細:目次、著者のプロフィール
目次
本書は、明確な章タイトルが設定されておらず、物語が連続して進んでいく(あるいは番号のみが振られている)構成となっています。 そのため、読者の混乱やネタバレを防ぐ意図からか、出版社の公式サイトやAmazonなど主要な書籍サイトでも、詳細な目次は公開されていません。
物語の「迷宮」に迷い込む感覚を、ぜひそのまま味わってみてください。
著者のプロフィール
伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。 システムエンジニアとして働きながら執筆活動を行い、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶部賞を受賞しデビュー。
2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、同年に「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。 2008年には『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞および第21回山本周五郎賞を受賞するなど、受賞歴多数。
『重力ピエロ』『マリアビートル』『グラスホッパー』など、映画化された作品も多く、その独特な世界観と巧みなストーリーテリングで、国内外に多くのファンを持つ。現在は宮城県仙台市在住。
本の基本情報
- タイトル: さよならジャバウォック
 - 著者: 伊坂 幸太郎
 - 出版社: 双葉社
 - 発売日: 2025年10月22日
 - ページ数: 344ページ
 
『さよならジャバウォック』の口コミ(X(旧Twitter)より)
私一人の意見では偏りがあるかもしれません。 そこで、Amazonや楽天レビューよりも「生の声」が溢れているX(旧Twitter)から、信頼できる「良い口コミ」と「悪い口コミ」を厳選しました。
良い口コミ
「さすが伊坂幸太郎作品。とても読みやすく、めりめり作品世界に惹き込まれ、加速しながら終盤へ雪崩込むこの感覚。久しぶりに伊坂ワールドにハメられました。キモチイイ!」
「2つの話が交互に進むが、何か違和感。それが最後に鮮やかに回収される。やっぱこうでなきゃ。」
「終盤の種明かしは「そっちか」とも唸ってしまったし、いつも気持ちのいい不意打ちをもらえる」
「キャラクター達の知的で哲学的かつユーモアのある会話展開、予想もつかぬ終盤、最後まで目が離せない良き読後感」
【Low calmの分析】 やはり、「伊坂ワールド」の引力、そして「違和感」からの「鮮やかな伏線回収」を絶賛する声が圧倒的に多いです。 特に「ハメられた」「キモチイイ」「不意打ち」といった言葉は、私が第1位で挙げた「騙される快感」と完全に一致します。 この感覚を味わいたい人にとっては、間違いなく「買い」の一冊でしょう。
悪い口コミ(または期待と違った点)
「(別作品と比べて)SFぽい世界観とくどくどと遠回りしながら展開していくストーリーに面白さを感じられず。」
「読了後の満足感は私的には薄かった。なぜなのか、たぶん伊坂幸太郎に期待をしすぎてしまったから。」
「読みながら「さてさて今回はどんな驚きをくれるのかな」と自分で自分のテンションを上げすぎてしまったことも要因だ。」
【Low calmの分析】 「合わなかった」という意見の核心は、「遠回しな展開」と「SF的な世界観」にあるようです。 これは「おすすめしない人」で挙げた「ストレートな物語を読みたい人」や「非現実的な設定が苦手な人」の意見と合致します。 また、「期待値の上げすぎ」という指摘も重要です。伊坂幸太郎氏の作品だからと構えすぎると、純粋に「騙される」ことを楽しめなくなるかもしれません。 何も考えず、ただ物語の濁流に身を任せる。それが本作を楽しむ最大のコツだと私は思います。
まとめ:あなたの時間は、この「罠」に費やす価値があるか
最後に、改めて「本の変人」Low calmとしての結論を述べます。
本書は、私がグッときたポイントで挙げた3つ、 「第3位:日常会話に潜む違和感(毒)」 「第2位:現実と虚構を交錯させる構成(迷宮)」 「第1位:全てが計算された驚愕のラスト(罠)」 これらが複雑に絡み合い、一つの「ジャバウォック」という巨大な仕掛けを形成しています。
冒頭で私は、「あなたの時間を大切にしたい」と言いました。 その上で、断言します。
あなたが「ただの暇つぶし」ではなく、「思考を揺さぶられる体験」や「極上の知的エンターテイメント」を求めているのなら、『さよならジャバウォック』に費やす時間は、決して無駄にはなりません。
むしろ、読み終えた後、あなたは費やした時間以上の「驚愕」と「満足感」を手にし、私のように再び冒頭のページを開いているはずです。
あなたへのアクションプラン
もし、ここまで読んで「自分はおすすめな人に当てはまるかもしれない」と少しでも感じたなら。
まずは、何も考えず、冒頭の数ページだけでも読んでみてください。 主人公「量子」が陥る異常な状況と、そこに現れる後輩「桂凍朗」との会話。 その**「ズレ」と「違和感」**を、あなた自身の目で確かめてみてください。
その小さな違和感こそが、伊坂幸太郎氏があなたのために仕掛けた、壮大な「罠」への入り口です。 ぜひ、この極上の「騙される快感」を味わってみてください。

