「どうせミステリなんて…」と舐めているあなたへ。私の5時間を奪った最高傑作『ガラスの塔の殺人』
「あなたの時間を大切にすること」 これは、このブログのたった一つの約束事。
どうも、本の変人・Low calm(ロウカーム)です。美味しいお茶と読書を愛しています。
あなたは、500ページを超える分厚い本を前にして、こう思ったことはありませんか? 「これを読んで、もしつまらなかったら?」「この5時間(あるいはそれ以上)をドブに捨てることになったら?」
私は、心の底から「本選びの失敗」を憎んでいます。 本業(人事労務)で日々シビアな判断をしているせいか、読書という純粋なインプットの時間すら、無駄にしたくない。年間150冊の活字中毒者であり、特にミステリ(イヤミスと純文学が好物)にはうるさいと自負しています。
今回、私が紹介するのは、知念実希人氏の『ガラスの塔の殺人』。
結論から申し上げます。 これは、「本格ミステリ」というジャンルが到達した一つの極致です。そして、ミステリを愛する人間(あるいは、かつて愛していた人間)に対する、挑戦状であり、ラブレターです。
この記事だけ読んで、あなたは判断すればいい。 この500ページの塔に挑むか、あるいは、そっと棚に戻して貴重な時間を守るか。
この記事を読めば、以下のことがわかります。
- 年間150冊読むミステリ好きが、なぜこの本を「傑作」と断言するのか。
 - この本が、あなたの「貴重な時間」を費やすに値するかどうかの最終判断。
 - あなたが「絶対に読むべき人」か「絶対に読んではいけない人」か。
 
もしあなたが「最近のミステリはトリックばかりで人間が描けていない」「どうせ驚きの仕掛け(笑)なんでしょ」と冷めているなら……ぜひ、この記事の「グッときたところ」だけでも読んでいってください。
あなたの「本選びの失敗」を、私が肩代わりします。
☕️ Low calmが「グッときた」ところベスト3
では早速、私がこの分厚い本を投げ出さず、むしろ前のめりで読みふけってしまった理由、「グッときた」箇所を第1位から紹介します。
第1位:すべてが明かされた時、脳が焼き切れるような「納得」と「敗北感」
ミステリの書評で、核心に触れないように「驚愕のラスト」を語るのは、本当に難しい。ネタバレ厳禁が私の信条ですから、詳細は語りません。
私が第1位に選んだのは、特定の「引用文」ではなく、「最後の真実が明かされた瞬間の、あの読書体験そのもの」です。
私は仕事柄、人を評価し、その人の本質を見抜こうと日々努力しています。面接や面談で、相手の言葉の裏にある「真意」を探るのが癖です。だから、ミステリ小説の登場人物に対しても、常に「この人は嘘をついている」「この発言は伏線だ」と疑いの目を向けています。
『ガラスの塔の殺人』でも、もちろんそうでした。 奇妙な硝子の塔、クセしかない登場人物たち、次々と起こる密室殺人。私は「はいはい、このパターンね」「この人が怪しい」と、自分の読書経験と職業病(?)を総動員して推理を組み立てていました。
そして、完膚なきまでに叩きのめされました。
この物語の「真相」は、ただ奇抜なだけではありません。一部のミステリにあるような「そんなの反則だ(アンフェアだ)」という不快感が一切ないのです。
なぜなら、すべてのヒントは、最初から(それこそ1ページ目から)公正に提示されていたから。私が「これはこういうものだ」と勝手に思い込んでいた常識、その死角を、作者は的確に突いてきました。
読み終えた瞬間、「ああ、やられた。見事だ」という敗北感と、「あの時のあの言葉は、そういう意味だったのか!」という無数の伏線が一気に回収される快感。このカタルシスこそ、本格ミステリの醍醐味です。
あなたの時間を無駄にしないと誓いましょう。この結末は、あなたがミステリに費やしてきた時間、そのすべてを肯定する力を持っています。
第2位:作者の「ミステリ愛」が暴走する、狂気的なまでの「知識の洪水」
この本は、人によっては「読むのが苦痛」と感じるかもしれません。 なぜなら、登場人物(特に名探偵・碧月夜)が、ことあるごとに古今東西のミステリ作品の「うんちく」や「オマージュ」を語り出すからです。
(引用)「もしかしたら、私たちは気づいていないだけで、実は『館もの』の本格ミステリ小説に迷い込んでしまった登場人物なのかもしれないよ」
これは作中のセリフですが、まさにこの言葉が本書を象徴しています。 この物語自体が、「本格ミステリとは何か」を問いかけるメタ構造になっているのです。
アガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、綾辻行人……。ミステリの歴史を築いてきた巨匠たちの名前と作品群が、これでもかと登場します。
普通の読者なら、「もういいよ、早く話を進めてくれ」と思うかもしれません。 しかし、私のような「本の変人」にとっては、これが最高のご馳走でした。
作者の知念氏は、明らかに「自分が愛してきたミステリ」のすべてを、この一冊に詰め込もうとしています。その熱量が尋常ではない。これは単なる知識のひけらかしではなく、「あなたもこの作品、読みましたよね? あの感動を覚えていますか?」という、読者への「踏み絵」なのです。
この「ミステリ愛の暴走」についてこられるか。 これが、本書を「時間の無駄」と感じるか「一生モノの一冊」と感じるかの、最大の分岐点です。
私ですか? 私はもちろん、この暴走する愛に喜んで轢かれにいきました。ミステリ好きで良かったと、心から思える瞬間でした。
第3位:読者の存在を前提とした、不遜で誠実な「読者への挑戦状」
物語が佳境に入った頃、突如として挿入される「読者への挑戦状」。 これは、かつての本格ミステリで流行した手法です。「犯人を当てるためのヒントは、すべて提示し終えた。さあ、探偵より先に謎を解いてみたまえ」と、作者が読者に挑戦するものです。
(引用)「私は読者に挑戦する。(中略)これは、読者への挑戦状である。諸君の良き推理と、幸運を祈る」 ※引用の都合上、一部の表現を変更しています。
正直、この手法は現代では古臭く、下手をすれば「寒い」演出になりかねません。 しかし、本書においては、これが完璧に機能していました。
なぜか。 それは第2位で述べた「ミステリ愛の暴走」によって、読者(私)のテンションが最高潮に高められているからです。「ああ、そうこなくっちゃ!」「望むところだ!」と、まるで作者と知的な決闘をするような高揚感を覚えました。
私は本業で「採用」に関わりますが、応募者に「弊社はあなたを試します」と不遜な態度をとる企業は、たいてい失敗します。信頼関係がないからです。 しかし本書は、500ページ近い道のりの中で、読者と作者の間に「ミステリ愛」という強固な信頼関係を築いています。だからこそ、この「挑戦状」は不遜ではなく、「読者の知性を信じる」という誠実な態度として、私には響きました。
私はこの挑戦状を前に一度本を閉じ、お茶を淹れ直し、これまでの伏線をメモに書き出しました。 ……まあ、結果は惨敗だったわけですが(第1位参照)。
🕰️ どんな人になら、貴重な「5時間」を投資する価値があるか
私のモットーは「あなたの時間を大切にすること」。 だから、正直に「おすすめな人」と「おすすめしない人」を明記します。
おすすめな人(この指とまれ!)
- 「我こそはミステリ好き」と自負する人 (特に綾辻行人氏の『十角館の殺人』や、古典ミステリが好きな人。第2位で述べた「うんちく」が、すべてご馳走に変わります)
 - ロジック(論理)で殴られるような快感を求める人 (感情論や雰囲気ではなく、「なぜ、そうなるのか」という理詰めの解決を読みたい人。パズルが組み上がる快感を求める人)
 - 500ページ超えの「鈍器本」に挑む体力と時間がある人 (これはスキマ時間に読む本ではありません。腰を据えて、作者との知恵比べに没頭できる環境を用意できる人)
 
おすすめしない人(時間を無駄にします)
- 登場人物の「うんちく」や「雑談」が許せない人 (「話が脱線するな」「早く事件を解決しろ」とイライラしてしまう人。この本の魅力の半分は、その「脱線」にあります)
 - サクッと読めて、すぐ犯人が知りたい人 (本書は非常に緻密で、情報量が多いです。ファストフード的な読書を求めている人には、消化不良を起こします)
 - ミステリよりも、登場人物の「心の機微」や「恋愛」を重視する人 (これは人間ドラマが主軸ではありません。あくまで「謎解き」がメインディッシュです。私の好きな「イヤミス」のような、後味の悪い人間の暗黒面を期待すると肩透かしを食らいます)
 
📚 目次、著者、本の詳細
著者のプロフィール
知念実希人(ちねん・みきと) 1978年、沖縄県生まれ。東京都在住。東京慈恵会医科大学卒業。日本内科学会認定医。 2011年、『誰がための刃 レゾンデートル』(のちに『レゾンデートル』と改題し文庫化)で第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、作家デビュー。 『仮面病棟』『天久鷹央(あめくたかお)の事件カルテ』シリーズなど、現役医師の知識を生かした医療ミステリで絶大な人気を誇る。
本の詳細
- タイトル: 硝子の塔の殺人
 - 著者: 知念 実希人
 - 出版社: 実業之日本社
 - ページ数: 504ページ(単行本)
 - 発売日: 2021年7月30日(単行本)
 
🗣️ 世間の声(Xより)
Amazonのレビューは誰もが見るので、ここではあえてX(旧Twitter)から、より生々しい「賛否」の声を集めました。
良い口コミ
「『硝子の塔の殺人』、読了。なにこれ……めちゃくちゃ面白い。ミステリ愛がすごい。怒涛の伏線回収と二転三転する展開に、500ページが一瞬で溶けた。これはミステリ好きなら読まないと損」
「知念実希人先生のミステリ愛の結晶。うんちくが多すぎて賛否両論あるのはわかるけど、私は『わかる!』『それも好き!』って頷きながら読んだ。そして最後の最後で全部ひっくり返されて、ただただ呆然。見事」
悪い口コミ
「硝子の塔、読んだけど……正直、私には合わなかった。登場人物、特に探偵役のキャラが好きになれない。ミステリのうんちくが多すぎて、本筋の邪魔になってる気がして集中できなかった」
「期待しすぎたかも。トリックはすごいし、ロジックも完璧だと思う。でも、あまりに『ミステリのためのミステリ』すぎて、物語として冷たく感じた。もっと人間のドロドロした部分が読みたかった」
結論:この「塔」は、あなたの時間を捧げる価値があるか
さて、長々とお付き合いいただき、ありがとうございます。 「結論から話せ」がモットーの私ですが、この本に関しては、その魅力を伝えるためにどうしても言葉が必要でした。
この記事の冒頭で、私は「この本は、ミステリを愛する人間への挑戦状であり、ラブレターだ」と書きました。
第3位の「読者への挑戦状」という不遜なまでの自信。 第2位の「ミステリ愛の暴走」という狂気的な熱量。 そして第1位の「完璧な伏線回収による敗北感」という最高のカタルシス。
これら全てが、ただの「謎解きパズル」を、忘れられない「読書体験」へと昇華させています。
本を読む前の私は、「どうせまた、奇抜な設定だけのミステリだろう」と、正直、冷めた目でこの本を手に取りました。 本を読んだ後の私は、「本格ミステリは、まだこんなにも面白いことができるのか」と、自分の浅はかさを恥じると同時に、興奮でしばらく寝付けませんでした。
もし、あなたが「おすすめな人」に一つでも当てはまるのなら。 今すぐ、この500ページの「塔」に挑んでください。 それは、あなたの「貴重な時間」を奪うどころか、何倍にもして返してくれる、最高の知的投資になることを、本の変人・Low calmが保証します。
この記事が、あなたの「失敗しない一冊」と出会う手助けになれば幸いです。
他に、私が「時間の無駄だった」と切り捨てた本のレビューや、「これは!」と確信したビジネス書の紹介なども興味はありますか?

