「人生100年時代」という“呪い”。『エピクロスの処方箋』が、あなたの「時間の無駄」を終わらせる理由。
「時間の無駄」。 私、Low calmが読書において最も憎む言葉です。美味しいお茶を淹れる時間、その本を選ぶ時間、そして読む時間。その全てが「失敗」に終わるほど虚しいことはありません。
結論から申し上げます。夏川草介氏の『エピクロスの処方箋』は、もしあなたが「何のために生き、何のために働いているのか」という根本的な問いに答えを失っているならば、あなたの時間を最高に有意義にする一冊です。
しかし、もしあなたが『ジェネラル・ルージュの凱旋』のような緊迫した医療ミステリや、あるいは私の大好物である「イヤミス(後味の悪いミステリ)」のような強烈な刺激を求めているならば、その時間は確実に無駄になります。今すぐこのページを閉じ、別の本を探すことを強く推奨します。
この記事では、年間150冊の活字中毒者であり、本業で人事労務管理に携わる私(イヤミス愛好家)が、なぜこの「あまりに真面目すぎる」医療小説を「失敗しない一冊」として確信したのかを、徹底的に解剖します。
この記事でわかること
- 『神様のカルテ』とは似て非なる、本作独自の「哲学的な価値」
 - 人事部(私)が心を抉られた、「生きる意味」を問う痛烈な描写ベスト3
 - あなたがこの本を読むべきか、読ないべきかの最終判断
 
このブログのモッ<b>「あなたの時間を大切にすること」</b>。 正直に告白します。私は「心温まる医療ドラマ」が苦手です。どうせ最後は「命は尊い」という着地点に落ち着くのだろうと、読む前から高を括っていました。私の時間を無駄にするのではないか、と。
しかし、私は間違っていました。 この本は「処方箋」の名を冠した「劇薬」です。 最後まで読めば、あなたは「ただ長く生きること」がいかに虚しいかを知り、明日からの「人生の質(QOL)」について、本気で考え始めることになるでしょう。
グッときたところベスト3
本書は、最先端の大学病院で「データ」と「延命」を信奉する医師が、とある田舎の診療所で「幸福」と「看取り」を重視する老医師と出会う物語です。私が心を鷲掴みにされた「現代社会への痛烈な問い」を、第一位から紹介します。
第一位:「死」を「敗北」としか見なさない現代医療への、痛烈な批判
(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 「この治療で、余命は1ヶ月伸びる。それが我々の成果だ」と信じる大学病院の医師。 「その1ヶ月、患者はチューブに繋がれ、苦しむだけではないのか? それは果たして『幸福』なのか?」と問う老医師。
私は本業で人事労務管理をしています。 この構図は、現代の「企業」と「従業員」の関係そのものです。
人事は「離職率の低下」「平均勤続年数の延長」といった「数字(データ)」を追いかけます。それは大学病院が「延命率」を追い求める姿とそっくりです。
しかし、私たちは問いません。 「その会社に、“ただ所属しているだけ” の1ヶ月に、その人の『人生の幸福』はあるのか?」と。
私たちは「死(=離職)」を「敗北」と捉えすぎています。 たとえ本人が苦しんでいても、「組織に在籍させ続けること」だけが正義になっていないか。
本書が突きつける「延命至上主義」への疑問は、そのまま「会社員人生」への疑問として、私の胸に突き刺さりました。これは医療小説の皮を被った、恐ろしいほどの組織論です。
第二位:「快楽主義(エピクロス)」の、本当の意味の提示
(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 老医師は語る。「エピクロスの哲学」とは、贅沢や派手な享楽のことではない。 それは「アタラクシア(心の平穏)」の状態。 激しい喜びを「足す」ことではなく、苦痛や恐怖を「引く」こと。 「パンと水さえあれば、神と幸福を競える」――それこそが、究極の快楽なのだ、と。
私はこの部分を読み、自分の読書観を根本から揺さぶられました。
私は「イヤミス」を愛し、常に強烈な「刺激」を求めてきました。年間150冊という「量」を追い求め、まだ見ぬ「快楽」を「足す」ことばかり考えてきたのです。
しかし、老医師の言葉は、私のその行為自体が「幸福」ではなく、むしろ「強迫観念(=苦痛)」なのではないか、と問いかけてきました。
「刺激」を求めるのではなく、「心の平穏」のために読書をする。 「量」を誇るのではなく、一冊と向き合い「雑音」を消す。
私は、私自身の「読書の仕方」という「時間の使い方」すら、この本によって見直させられることになりました。 これは「幸福とは何か」という哲学の入門書として、近年稀に見る良書です。
第三位:主人公(現代医療の権化)の「葛藤」の生々しさ
(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 主人公は、老医師のやり方を「非科学的だ」「ただの現実逃避だ」と激しく反発する。 データを積み上げ、病気を克服してきた「進歩」こそが医学の正義だと信じているからだ。 しかし、心のどこかで「本当にそうだろうか?」という疑念が、彼を苛み続ける。
私が本作を「時間の無駄だ」と切り捨てなかった、最大の理由がこれです。 もし主人公が、老医師の言葉に「なるほど!」と簡単に感化されていたら、私は即座に本を閉じていました。そんなものは時間の無駄です。
しかし、主人公は「現代医療の正義」を背負っているがゆえに、最後まで苦しみ、葛藤します。 「進歩・データ・効率」という価値観(これは私の本業=人事の価値観でもあります)と、 「幸福・平穏・人間性」という価値観。
どちらも「正義」なのです。 この「正義 vs 正義」のぶつかり合いこそが、物語の緊張感を生んでいます。 『神様のカルテ』が「情」の物語だとすれば、『エピクロスの処方箋』は「理」と「情」が激突する、大人のための哲学ドラマです。
どんな人におすすめなのか
この本があなたの時間を豊かにするか、それとも無駄にするか。明確に線引きします。
おすすめな人
- 「何のために働いているのか」を見失ったビジネスパーソン(特に人事・管理職) 「延命(=在籍)」と「幸福(=QOL)」の問題は、あなたの職場の問題そのものです。これは必読のビジネス書です。
 - 『神様のカルテ』は好きだが、もっと深く「死生観」について考えたい人 あの世界のファンはもちろん、より一歩踏み込んで「幸福な最期とは何か」を問いたい方には、これ以上ない一冊です。
 - 「延命治療」や「親の介護」といった現実に直面し、答えが出せずにいる人 この本は簡単な答えをくれません。しかし、「決断するための物差し」を処方してくれます。あなたの時間を、考える時間に投資すべきです。
 
おすすめしない人
- 『ブラック・ジャック』や緊迫した医療スリラーを求める人 本書に派手な手術シーンや、組織の陰謀は(あまり)ありません。あるのは「哲学」と「対話」です。あなたの時間を確実に無駄にします。
 - 私の(Low calm)ような「イヤミス」の強烈な刺激、どんでん返しを最優先する人 これは「癒し」と「問い」の書です。心の平穏を求めていない方、毒を求めている方には向きません。
 - 物事を「0か100か」「白か黒か」でハッキリさせたい人 本作の結末は、一つの「答え」ではなく、読者への「問い」です。「結局どっちが正しいの?」とモヤモヤする方には推奨しません。
 
目次、著者のプロフィール、本の詳細
目次
本書は、大学病院に勤務する主人公が、田舎の診療所へ赴くところから始まります。 (出典:小学館 公式サイトの情報を基に、Low calmが構成を要約)
- プロローグ
 - 第一章 塔(大学病院)
 - 第二章 哲人(老医師との出会い)
 - 第三章 エピクロスの庭(診療所での日々)
 - 第四章 アタラクシア(心の平穏)
 - 第五章 処方箋
 - エピローグ
 
※著作権保護の観点から、正式な目次ではなく、Low calmによる解釈と要約を加えています。詳細はぜひ本書にてご確認ください。
著者のプロフィール
夏川 草介(なつかわ そうすけ) 1978年、大阪府生まれ。信州大学医学部卒業。長野県にて地域医療に従事する、現役の医師。 2009年、『神様のカルテ』で第10回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。同作はベストセラーとなり映画化もされた。 著書に『神様のカルテ』シリーズ、『本を守ろうとする猫の話』など。医師としての経験に基づいた、命と向き合う真摯な作品を描き続けている。
本の詳細
- 書籍名: エピクロスの処方箋
 - 著者: 夏川 草介
 - 出版社: 小学館
 - 発売日: 2021年2月17日
 - ページ数: 416ページ
 
口コミ
Amazonのレビューは誰もが見るので、ここではX(旧Twitter)から、より「生」の声を拾ってきました。
良い口コミ
「エピクロスの処方箋、号泣した。神様のカルテも好きだけど、こっちはもっと深く『死生観』『幸福とは何か』を抉ってくる。延命が全てじゃない、どう生きるか。夏川先生にしか書けない物語。今年ベストです。」
「医療従事者として、これは他人事じゃない。データと延命こそ正義と信じる主人公の気持ちも、QOLを優先する老医師の気持ちも、痛いほどわかる。読み終わって、自分の仕事の意味を問い直してる。」
悪い口コミ(または賛否両論)
「エピクロスの処方箋、読んだけど…ちょっと『説教くさい』と感じてしまった。言いたいことは凄くわかるし立派だけど、哲学をそのままセリフで語らせてる感じがして、物語として入り込めなかった。」
「神様のカルテが良すぎたせいか、エピクロスの処方箋はデジャヴを感じたかな…。舞台は違うけど、『理想の医療とは』っていうテーマが同じで。悪くはないけど、期待は超えてこなかった。」
まとめ:あなたの時間を投資すべきか
『エピクロスの処方箋』は、あなたの時間を投資する価値がある一冊でしょうか。
私は、本作の核心をこう読み解きました。
「人生100年時代」という言葉は、私たちに「長く生きること」を強要する“呪い”と化しています。 その呪いを支えているのが、「死は敗北だ」とする現代の価値観(グッときたところ第一位)です。
この本は、その呪いに対し、「エピクロス(快楽主義)」という全く別の価値観――すなわち「心の平穏(アタラクシア)」こそが幸福である(第二位)――という解毒剤を提示します。 しかし、それは簡単な解毒ではありません。現代の「進歩」と「データ」の正義を信じる者(主人公)の、壮絶な葛藤(第三位)を経て、初めてその意味が理解できるのです。
- 読む前の私(Low calm): 「イヤミス」を愛し、「刺激」を求める活字中毒者。人事部として「効率」と「データ」を信奉し、「心温まる話」は時間の無駄だと考えていた。
 - 読後の私(Low calm): この本は、私自身への「処方箋」だった。 「刺激」ばかりを求めていた私の読書は「平穏」だったか? 「数字」ばかりを追っていた私の仕事は「幸福」に貢献していたか? ――そう自問させられました。
 
この本は、ミステリではありません。 しかし、「自分は何のために生きているのか?」という、人生最大の謎(ミステリ)に挑むための、最高の道具です。
もしあなたが今、日々の仕事や生活に追われ、 「ただ時間を浪費している」 「ただ生き長らえているだけだ」 と感じているならば。
あなたのその「無駄な時間」を終わらせるために、この416ページに時間を投資してください。 これは「時間の無駄」では断じてありません。 あなたの「人生の質(QOL)」を取り戻すための、最も確実な自己投資です。

