【書評】『PRIZE―プライズ―』|「評価される地獄」に耐えられるか
人事労務のデスクに座っていると、数字や評価シートには決して表れない「ため息」が聞こえてくることがあります。
「これほど身を削っているのに、なぜ正当に報われないのか――」そんな、出口のない問いを抱えて夜を明かしたことはないでしょうか。
人事のLow calmです。 結論から申し上げます。本書『PRIZE』は、他人の物差しで自分を計ることに疲れ果て、それでもなお承認という名の飢えから逃れられない人にこそ、読んでほしい一冊です。
ただし、これはあなたの傷口を優しく撫でるような本ではありません。
むしろ、評価という名の呪縛がいかに醜悪で、いかに理不尽であるかを白日の下に晒すことで、他人の評価に人生を委ねる危うさを突きつけてくる劇薬です。
読み終えたとき、あなたは「認められたい」と願う自分を、少しだけ遠い場所から見つめ直せるようになっているはずです。
結論:この記事は「読む価値」ある?
- こんな悩みを抱える人へ
「なぜあの人が評価されるのか」という不条理に悶々としている人、承認欲求という名の病に侵されている人。 - 読むと得られる「実利」
「正当な評価」などという幻想を捨て去り、評価というシステムがいかに残酷なエンターテインメントであるかを知ることで、ある種の「あきらめ」という悟りを得られます。 - Low calmの判定
「電子書籍で十分(この情念を自宅の棚に永続配置するのはリスクが高い)」
Low calmが解説する「実生活で使える」ポイント3選
【ポイント1】評価のブラックボックスと「選ぶ側の理屈」
本作の白眉は、選考委員たちが候補作を裁くシーンです。
人事の私が普段扱う「評価シート」とは無縁の世界。そこにあるのは、選考委員の個人的な恩讐や、「このジャンルは嫌い」といったあまりにも主観的な感情です。
評価とは、評価される側の質ではなく、評価する側の都合で決まる。
この事実は、組織で生きる私たちにとって、絶望であると同時に、ある種の救い(=自分のせいではない)にもなり得ます。
【ポイント2】「業」という名のサンクコスト(※FP視点の解釈)
FPとして本作を眺めると、登場人物たちが払っているコストの異常さが際立ちます。 彼らは人生の平穏、人間関係、そして自らの精神を「評価」というリターンのために投じ続けます。
作中ではこれを「書くことの業」と呼びますが、外部から見ればそれは回収不能なコストを払い続ける破滅的な投資に他なりません。
合理性では測れない、人間の底なしの渇望が描かれています。
【ポイント3】「書く獣」として生きる、逃げ場のない終焉
主人公・百瀬陽が辿り着く結末は、決して「納得」や「解決」ではありません。
彼女は、誰に強制されるわけでもなく、自らの内なる飢えに従って「書くこと」という地獄を選び続けます。
自分を切り売りしてしか呼吸できない、表現者の狂気。
それはキャリア形成などという言葉では説明できない、剥き出しの生存本能の記録です。
プロの視点で見る「ここが惜しい」
あまりにも著者の実体験が投影されている(と感じさせる)ため、読んでいる最中、物語と現実の境界が曖昧になり、目眩を覚えるほどの毒気があります。
「読後の爽快感」を1ミリでも期待する人には、この本は全くおすすめできません。
どんな人におすすめなのか
✅ おすすめな人(時間を投資すべき人)
- 文学賞、あるいは「評価」というものの裏側に潜む政治性を覗き見たい人。
- 自分の承認欲求を、劇薬をもってしてでも「殺したい」と願っている人。
🚫 おすすめしない人(ミスマッチの可能性)
- 前向きな自己啓発やキャリアアップを求めている人。
- 作家という職業に、純粋でキラキラした夢を抱き続けたい人。
紙 or 電子どの形式で「時間」を使うべきか?
- 紙:△
読了後、本そのものが重苦しいオーラを放つように感じられるかもしれません。 - 電子:◎
スマホやタブレットという「日常」の中に、この狂気を閉じ込めておくのが賢明です。 - オーディオブック:×
人間の業を音声で聴き続けるのは、精神衛生上、推奨いたしません。
まとめ:あなたの「時間」を投資する価値はあるか
この本は、私たちが信じたい「努力は報われる」「正当に評価される」という物語を、無残に引き裂いてくれます。
冷え切った紅茶を片付けながら思うのは、人生において「評価」を求めることがいかに虚しいか、ということです。
それでも、私たちは評価を求めて足掻いてしまう。その滑稽で、凄絶な姿を真正面から描いた本作は、あなたの貴重な2時間を、全く別の意味で「凍りつかせる」価値があるでしょう。

