【書評】『I(アイ)』レビュー|読む順番で「世界」が反転する。道尾秀介が仕掛けた、静かなる叙述の罠。
こんにちは、Low calmです。
窓を開けると、少しひんやりとした風が入ってきました。淹れたてのアールグレイから立ち上る湯気を眺めながら、ふと「運命」について考えます。
私たちは日々、無数の選択をしています。人事の仕事をしていると、一つの配置転換、一つの面談での言葉選びが、その人のキャリアを大きく変えてしまう瞬間に立ち会うことがあります。人生は巻き戻せませんが、もし「あの時、別の選択をしていたら」というIF(もしも)の世界を覗き見ることができたなら。
今日ご紹介するのは、そんな「選択」そのものが物語の鍵となる、道尾秀介氏の『I(アイ)』です。
正直に言えば、この本は単なる暇つぶしではありません。読者のあなた自身が試される、ある種の「体験装置」と言わざるを得ない一冊でした。
結論:この記事は「読む価値」ある?
- こんな気分向け
予定調和な物語に飽き、脳が痺れるような知的興奮を求めている時。または、自分の「選択」が正しかったのか不安を感じている時。 - 読むと得られるもの
「本」という媒体でしか味わえない、物理的な驚きと、背筋が凍るようなカタルシス。 - Low calmの判定
「紙の本で買う価値アリ / 電子派も今回は紙媒体で買うべき
Low calmが「グッときた」ところベスト3
【第1位】「読む順番」を読者に委ねる、大胆な構成
本作の最大の特徴は、章の読み順が自由であること。「殺すか救うか。あなたの選択で、結末が変わる。」というキャッチコピーは、決して誇張ではありません。
普段、遅読で知られる私が、この作品に限っては購入から24時間以内に一気読みしてしまいました。それは、物語の吸引力もさることながら、「自分が選ばなかった方の世界」への渇望を抑えられなかったからです。
どちらから読んでも物語は成立します。しかし、読み終えた後に「もし逆に読んでいたら」と想像した瞬間、物語の景色は一変します。
これは単なる叙述トリックを超えた、読者の体験そのものをデザインする人間業離れした構成力だと言えるでしょう。
【第2位】書店での「運命」と、謎めいたブックカバー
私は合理主義的な性格から、普段はKindleやAmazonを利用することが多いです。しかし、この本に関しては「書店での出会い」こそが正解でした。
紀伊國屋書店で購入した際、店員さんがかけてくれたブックカバー。そこに描かれたいつものブックカバーとは少し違ったデザイン。著者の道尾秀介氏は、作品の中に無駄なものを一切配置しません。このブックカバーのデザインすらも、物語の一部であるかのような錯覚を覚えました。
深くはお話は出来ないのですが、このデザイン自体が2つの物語に重要な役割があります。自分自身の判断が時には、「救い」そして「殺す」ことがあると更に訴えかけるでしょう。
また、電子書籍では味わえない、紙の手触りと装丁の重み。これらが読書体験の正解へと導いてくれます。

【第3位】読後に訪れる、静かなる鳥肌
ネタバレを避けるため詳細は伏せますが、この本を読み終え、考察を巡らせた時に訪れるのは感動ではありません。「恐怖」に近い感覚です。
「自分が読んでいた物語は、本当に正しかったのか?」
「あの登場人物の感情は、逆から読めば全く別のものに見えるのではないか?」
そんな疑念が確信に変わった時、指先から腕にかけて一気に鳥肌が立ちました。 安易なハッピーエンドや、わかりやすい正解を求める人には、この感覚は毒になるかもしれません。しかし、ミステリーに「深み」を求める人にとっては、極上の紅茶のような余韻を残すはずです。
どんな人におすすめなのか
✅ おすすめな人(時間を投資すべき人)
- 前作『N』のような、実験的な構成を楽しめる人。
- 受動的に物語を追うのではなく、能動的に推理し、考察することに喜びを感じる人。
- 物理的な「本」というモノ自体に愛着がある人。
🚫 おすすめしない人(ミスマッチの可能性)
- 仕事で疲れ切っており、何も考えずに頭を空っぽにしたい人(脳のカロリーをかなり消費します)。
- 複雑な時系列や、視点の切り替えが苦手な人。
紙 or 電子どの形式で「時間」を使うべきか?
判定:◎ 紙の本(単行本・文庫)
FPとしてコストパフォーマンスを重視する私ですが、この作品に関しては「紙」一択です。 ページを行きつ戻りつし、「あそこはどうだったか」と物理的に確認する作業こそが、このミステリーの醍醐味だからです。そのため、「モノ」としての情報量が電子版とは段違いです。迷わずネット通販か書店へ向かうことをお勧めします。
世間の口コミ(Xから)
道尾秀介さんのIを読み終わりました
— もっちー (@mnao_daily) November 30, 2025
おそらく自分が読んだルートでは、多くの人を死なせてしまったみたい…
ただ、仕組みが理解できていない部分が多いので、次はもう一つのルートから読んでみようと思います#小説 #読書アカウント#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/ytmeaNV0mJ
まとめ:あなたの「時間」を投資する価値はあるか
人生の時間は有限です。私たち社会人は、日々何かに追われながら生きています。 だからこそ、たまの休日には、現実の選択の重圧を忘れさせてくれるような、それでいて現実以上に重い「選択」を迫る物語に没頭するのも悪くありません。
『I(アイ)』に費やす数時間は、決して無駄にはなりません。 読み終えた後、あなたの目の前の景色――あるいは、これからの人生の「選択」に対する見方が、少しだけ変わっているかもしれません。
静かな部屋で、誰にも邪魔されずにページをめくる。そんな贅沢な時間を、この本と共に過ごしてみてはいかがでしょうか。

