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小説
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『生殖記』は会社に疲れた人事部が読むべき「社会人の聖書」だった

Low Calm
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【結論】この本は、あなたの「普通」を破壊する。

どうも、Low calm(ロウカーム)です。「本の変人」を名乗り、年間150冊ほどの本を読み漁りながら、普段は300人規模の会社で「ぼっち人事労務管理」をしています。

このブログのモットーは「あなたの時間を大切にすること」。私自身が「本選びの失敗」で時間を浪費するのが心底嫌いだからです。

だから最初に結論を言います。

浅井リョウ氏の『生殖記』は、「社会」や「会社」というシステムに息苦しさを感じているすべての人に、いますぐ読んでほしい一冊です。

逆に、「人生は成長と発展こそがすべてだ」「みんなと一緒が一番安心する」と心から信じている人は、この本を読むと不快になるかもしれません。時間の無駄になる可能性があるので、ここでブラウザを閉じてください。

この記事でわかること

  • 『生殖記』が「ただの奇抜な小説」ではない、恐ろしいほどの深淵
  • 現役の人事労務(兼FP2級)の私が、会社員として最も「刺さった」ポイント
  • あなたがこの本を読むべきか、「時間の無駄」にならないかの最終判断。

この記事の信頼性は、私の「人生」が担保します。

新卒1年目で難病(潰瘍性大腸炎)を宣告され、人生ハードモードが確定した私にとって、「限られた時間をどう使うか」は最大の関心事です。

また、職員の給与計算を1円でもミスったら人生が終わるプレッシャーの中で「お金」と向き合い続けた結果、FP2級を取得しました。

そんな「時間・お金・健康」に人一倍うるさい私が、「これは!」と確信した良書です。

この記事を読み終える頃、あなたは「会社でモヤモヤしていた違和感」の正体を正確に言語化できるようになっているはずです。


🍵 Low calmが『生殖記』でグッときたところベスト3

では早速、私が「グッときた」というか、もはや「抉られた」箇所をランキング形式で紹介します。もちろん、小説なのでネタバレは一切ありません。ご安心を。

【第1位】「語り手」の視点が生む、圧倒的な「客観」

この小説の最大の特徴。それは「語り手」です。

詳しい言及は避けますが、それは主人公・尚成(なおなり)の「一部」でありながら、彼とは全く別の意思を持つ存在。その目的はただ一つ、生物学的な「種の保存」です。

この語り手は、尚成の「社会的な悩み」や「人間関係の葛藤」を、「知ったことか」と一刀両断にします。

私たちは「会社」や「社会」というルールの中で生きています。人事労務として就業規則を管理している私が言うのも変ですが、それらは所詮、人間が勝手に作った「ごっこ遊び」のルールに過ぎません。

しかし、この語り手は、そんな「ごっこ遊び」の盤上にはいません。彼は「生物」としてのルール、つまり「どうやって遺伝子を次世代に残すか」という一点のみに全振りしています。

この視点は、私自身の体験と強くリンクしました。

私は潰瘍性大腸炎(UC)という難病持ちですが、現在は寛解期(症状が落ち着いている状態)です。しかし、一度タガが外れれば、私の「社会人としての意思」などお構いなしに、身体は暴走を始めます。

会議中に強烈な便意に襲われ、脂汗をかきながら「ここで退席したら評価が…」などと悩む「私(理性)」と、「今すぐトイレに行かねばすべてが終わる」と警告する「私(身体)」。

『生殖記』の主人公と語り手の関係は、まさにこれです。

病気であれ、食欲であれ、性欲であれ、私たち「ヒト」は、自分の身体という「乗り物」のすべてを制御できているわけではありません。

私たちは、自分の中に「自分とは異なる意思を持つ、生物学的な何か」を飼っている。

普段、会社で「立派な社会人」を演じている私たちも、一皮むけば「種の保存」という本能に突き動かされる「ただの生物」であること。

この小説は、そのどうしようもない真実を、ユーモラスでありながら冷徹に突きつけてきます。この構造に気づいた時、私は「浅井リョウ、天才か…」と唸るしかありませんでした。

【第2位】「手は添えて、だけど力は込めず」という処世術

第2位は、主人公・尚成の「会社でのスタンス」を表現した一言です。

彼は家電メーカーの総務部で働いていますが、「共同体の拡大、発展、成長を担うだけのモチベーションが毛ほどもない」と断言しています。

そんな彼が、会社という共同体でどう振る舞っているか。それが、

「手は添えて、だけど力は込めず」

です。

もう、これ。これすぎて、お茶を噴きそうになりました。

300人規模の会社で「ぼっち人事」をやっていると、こういう場面が無数にあります。

例えば、経営陣が「全社一丸となってDX推進!」「ペーパーレス化でコスト削減!」と高らかに宣言する。でも、現場からは「紙じゃないと無理」「新しいシステム覚える時間がない」と抵抗が来る。

経営陣の「熱意」と、現場の「現実」。その板挟みです。

ここで人事(私)が、「はい! DXやります! 私が全部やります!」と力を込めすぎるとどうなるか。

確実に、潰れます。私が倒れたら、来月の給与計算は誰がやるんですか?(切実)

だから、私も「手は添える」んです。「DX推進、素晴らしいですね。まずは各部署の課題をヒアリングしましょう(=時間稼ぎ)」と。でも、「力は込めない」。心のどこかで「どうせ無理だろ」と冷めている。

この「手は添えるけど、力は込めない」スタンスは、一見すると「やる気がない」と非難されがちです。

しかし、これは「会社」という共同体から自分の「個」を守るための、最強の処世術だと私は確信しています。

会社(共同体)の目標と、自分の人生(個)の目標は、必ずしも一致しません。むしろ、一致しないことの方が多い。

それなのに、会社の目標に「力を込めすぎ」て、心をすり減らし、病んでしまった人を、私は人事実務の中で何人も見てきました。

『生殖記』の主人公・尚成は、その「力の抜き方」を完璧にマスターしています。彼は、共同体からドロップアウトする(=退職する)のではなく、所属はしつつも、決して精神を乗っ取られない道を選んでいる。

この絶妙な距離感は、現代の会社員、特に私のような中間管理職やバックオフィス部門の人間にとって、一つの「解」を示してくれていると感じました。

【第3位】「多様性」ブームへの痛烈な皮肉

第3位は、この本が「LGBTQ」を扱っている点、そしてそれを取り巻く「社会」の欺瞞を暴いている点です。

主人公の尚成は、同性愛者です。

そして、例の「語り手」は、「種の保存」(=異性との生殖)を至上命題としています。

この時点で、両者は「絶対に相容れない」わけです。

この設定が、現代社会の「多様性」ブームに対する、強烈な皮肉として機能しています。

最近、どこの会社も「ダイバーシティ&インクルージョンだ!」「SDGsだ!」と騒がしいですよね。人事としても、そういう研修を企画させられます。

でも、本音はどうでしょう。

会社が「多様性」を推進する理由は、本当に「多様な個性を尊重するため」でしょうか?

違いますよね。

「多様な人材を活用して、企業価値を高め、成長・発展するため」です。

結局、「共同体の拡大、発展、成長」という既存のレールに“乗せる”ことが目的なんです。

『生殖記』は、その欺瞞を許しません。

主人公の尚成は、そもそも「生殖による共同体の発展」に貢献できない(しない)存在です。そんな彼に対して、世間は「多様な生き方だね」と“理解”を示したフリをします。

しかし、心のどこかで「でも、子供は作らないんだよね?」「生産性、ないよね?」という無言の圧力をかけてくる。

この小説は、「理解があるフリをしたマジョリティ」の傲慢さを、これでもかと暴き出します。

これは、FP(ファイナンシャル・プランナー)としての視点にも通じます。

世間は「老後のために2000万円必要だ」「NISAで資産を増やせ」と、「成長・発展」を強要してきます。

でも、もし私が「いや、私は月10万円で質素に暮らすので、そんなにお金は要りません。老後は生活保護でいいです」と言ったら?

きっと「社会人としてどうなんだ」「無責任だ」と叩かれますよね。

「共同体のルール」から外れることを、この社会は極端に恐れます。

『生殖記』は、そんな「普通」の圧力が、いかに暴力的であるかを突きつけてきます。「多様性」という言葉が、いかに「多様性を許さない」ために使われているか。

『正欲』もそうでしたが、浅井リョウ氏の「社会の“きれいごと”を許さない」という執念には、もはや恐怖すら感じます。


どんな人におすすめなのか

この本は、間違いなく「人を選ぶ」一冊です。私が「あなたの時間を大切にする」ために、ハッキリと仕分けします。

🙆 おすすめな人

  1. 会社や組織の「建前」にうんざりしている人 「全社一丸」「ビジョン共感」「社会貢献」… こういう言葉を聞くと、鳥肌が立ってしまう人。特に、私と同じ人事・総務・管理部門で、会社の「きれいごと」の裏側を知ってしまった人には、最高の処方箋になります。
  2. 自分の「普通」が、他人とズレていると感じる人 主人公の「生きづらさ」は、性的マイノリティだから、だけではありません。周りが「成長だ!」「結婚だ!」と盛り上がっている中で、「…なんで?」と冷めてしまう感覚。その「ズレ」に心当たりのある人には、深く刺さるはずです。
  3. 『正欲』を読んで「理解したつもり」になっていた人 前作『正欲』を読んで、「なるほど、多様性ってこういうことか」と納得した人。残念ながら、この『生殖記』は、そのあなたの「理解」すら粉々に打ち砕きに来ます。「わかったつもり」の自分を殴られたい、Mっ気のある読書家にもおすすめです。

🙅 おすすめしない人

  1. 設定の「奇抜さ」についていけない人 本作の「語り手」は、はっきり言って“アレ”です。この設定を「ふざけている」と感じた瞬間に、この小説のメッセージは一切入ってこなくなります。真面目な純文学だけを読みたい人には向きません。
  2. 「成長こそが人生の喜びだ」と信じている人 人生の目標は「キャリアアップ」「資産形成」「家庭円満」であり、それ以外は「甘え」だと考える人。この本は、あなたの価値観を真っ向から否定しにかかります。読んで得られるものは「不快感」だけでしょう。
  3. スカッとする物語、優しい物語が読みたい人 読後感が「あー、面白かった!」とスッキリするエンタメではありません。むしろ、「自分は、社会は、なんて傲慢だったんだ…」と、重たい何かを突きつけられます。美味しいお茶と甘いお菓子が必須です。

著者のプロフィール、本の詳細

著者:浅井 リョウ(あさい りょう)

  • 1989年(平成元年)、岐阜県生まれ。
  • 早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
  • 2013年、『何者』で第148回直木三十五賞を(男性として、また平成生まれとして)戦後最年少で受賞。
  • 会社員として働きながら執筆活動をしていた時期もあり、その経験が『何者』や本作の「会社」の描写に強烈なリアリティを与えています。
  • 2021年刊行の『正欲』も、社会に衝撃を与え、大ベストセラーとなりました。

「若者のリアル」を描く天才でありながら、近年は「社会の欺瞞」を暴く“イヤミス”ならぬ“イヤ社会”小説(今、私が作りました)の旗手だと感じています。

本の詳細

  • タイトル: 『生殖記』
  • 著者: 浅井 リョウ
  • 出版社: 小学館
  • 発売日: 2024年10月2日
  • ページ数: 288ページ

☕ まとめ:私たちは「共同体の部品」になるために生きているのか?

さて、美味しい紅茶でも淹れ直しましょうか。

今回ご紹介した『生殖記』。

この本が突きつけてくる問いは、非常にシンプルです。

「あなたは、社会や会社の“部品”として『しっくり』くるために、自分の人生を無駄遣いするのですか?」

第1位で挙げた「本能的な自分(語り手)」。 第2位で挙げた「社会的な自分(手は添えるが力は込めず)」。 第3位で挙げた「共同体からの圧力(成長しろ、多様性(笑))」。

これらすべてが、私たち会社員が日々直面している「現実」そのものです。

私は人事労務として、そしてFPとして、職員の「人生」に触れる機会が多くあります。彼らの「お金」や「キャリア」の相談に乗っていると、痛感することがあります。

それは、あまりにも多くの人が、「共同体(会社や世間)のモノサシ」でしか自分の価値を測れなくなっている、ということです。

「給料が上がらないと、価値がない」 「昇進しないと、負け組だ」 「結婚して子供を持たないと、普通じゃない」

全部、ウソです。 それは、「共同体」があなたを都合よく使うための「呪い」に過ぎません。

『生殖記』は、その「呪い」を解くための本です。

この本を読んだからといって、世界は変わりません。明日も会社に行き、理不尽な上司の指示に「手は添え」なければなりません。

ですが、あなたの「視点」は変わります。

「ああ、この人はいま、『共同体の拡大・発展』というルールに縛られて、必死になってるんだな」 「私は、私の『しっくり』くる場所で、力を抜いて生きよう」

そう思えるだけで、人生のプレッシャーは驚くほど軽くなります。

あなたの「大切な時間」を、会社の「成長」という名の虚構に捧げるのは、もうやめにしませんか。

Low calmでした。 美味しいお茶と、良い読書を。

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