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小説
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「誰かを救いたい」というあなたの“エゴ”、見透かされてますよ。『蛍たちの祈り』が暴く、「優しさ」の本当の代償。

Low Calm
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「時間の無駄」。 私、Low calm(ロウカーム)が読書において最も憎む言葉です。美味しいお茶を淹れる時間、その本を選ぶ時間、そして読む時間。その全てが「失敗」に終わるほど虚しいことはありません。

結論から申し上げます。 町田そのこ氏の『蛍たちの祈り』は、もしあなたが「優しさ」や「癒し」だけを求めてこの本を手に取るなら、あなたの時間を無駄にする可能性があります。

正直に告白します。 私は年間150冊を読む活字中毒者ですが、専門は「イヤミス(後味の悪いミステリ)」と純文学。本業は人事労務管理です。 『52ヘルツのクジラたち』の著者である町田氏の作品は、私にとって「優しすぎる」のではないか。「癒し」や「感動ポルノ」で私の貴重な時間を浪費させるのではないか。そう、心の底から疑っていました。

しかし、読み終えた今、私は自分の浅はかさを恥じています。 これは「優しい」だけの物語ではありません。 「人を救う」という行為がいかに傲慢で、危険で、どれほどの「覚悟」を要するかを、血が滲むようなリアリティで描いた「劇薬」でした。

この記事では、人事部として日々「人の建前と本音」に向き合い、そして「イヤミス」を愛する私が、なぜこの本を「失敗しない一冊」として確信したのかを、徹底的に解剖します。

この記事でわかること

  • なぜこの本が、生半可な「自己啓発書」や「癒し本」ではないのか
  • 人事部の私が心を抉られた、「救済」の本質ベスト3
  • あなたがこの本を「読むべきか」「読まないべきか」の最終判断

このブログのモットーは「あなたの時間を大切にすること」。 最後まで読めば、あなたは明日、誰かに「大丈夫?」と声をかけることの「本当の重さ」を知り、自分の行動を見直すことになるでしょう。


グッときたところベスト3

本書は、海辺の町で「よろず請負人」を名乗る女性・貴(たか)が、人々の「祈り」にも似た小さな依頼を解決していく連作短編集です。私が心を鷲掴みにされた「人間の業と救い」を、第一位から紹介します。

第一位:主人公・貴の「救い方」の壮絶な覚悟

(※ネタバレ防止のため、Low calmによる要約・引用) 彼女は、依頼人の問題を「解決」するのではない。 依頼人が抱える「罪悪感」や「どうしようもない過去」から目を逸らさず、ただ寄り添い、共に苦しみ、その業(ごう)を自身も引き受ける。 それは「救済」ではなく「共苦」と呼ぶべき行為だ。

私は本業(人事労務)で、毎日「問題」を抱えた従業員と面談します。 「ハラスメントを受けた」「メンタル不調だ」「キャリアに悩んでいる」。 私の「仕事」は、それを聞き、会社の「ルール」と「法律」に則って「処理(ソリューション)」することです。そこには「感情」を挟む余地はありません。それがプロフェッショナルであり、それが「組織」だからです。

しかし、主人公の貴は違います。 彼女は「解決」しない。彼女は、依頼人の人生の「業」そのものを、自分の身に引き受ける覚悟で向き合います。 彼女の行為は、ビジネスではありません。採算度外視であり、危険ですらあります。

私は、貴の姿を読んで、自分の「仕事」を恥じました。 私が「処理」と呼んでいる行為は、結局のところ、相手の「本当の苦しみ」から目を逸らし、「ルール」という盾の後ろに隠れているだけではないのか? 「人を救う」とは、安全圏から手を差し伸べることではない。 相手と同じ泥水に、自ら飛び込む「覚悟」のこと。 その痛烈な事実を、私はこの物語に叩きつけられました。これは「癒し」などでは断じてありません。私の「職分」を問う、厳しい「刃」でした。

第二位:「救われる側」の人間の、身勝手さと醜さの描写

(※ネタ…防止のため、Low calmによる要約・引用) 貴のもとを訪れる依頼人は、決して「可哀想で清らかな被害者」ではない。 彼らは往々にして、身勝手で、嘘つきで、自分の弱さから他人を傷つけてきた「加害者」でもある。

私が「イヤミス」を愛する理由は、人間の「綺麗事ではない本性(=悪意、醜さ)」が描かれるからです。 その点において、町田そのこ氏の筆致は、イヤミス作家のそれと通じます。

この物語に出てくる人々は、決して「美しい被害者」ではありません。 自分の犯した罪に苦しみ、しかしそこから逃げようともがき、他責的で、見ていてイライラするほど「弱い」人間たちです。

しかし、主人公の貴は、その「醜さ」や「身勝手さ」ごと、彼らを受け入れます。 人事の面談でもそうです。「私は悪くない、周りが悪い」と語る従業員は多い。 私はそれを「事実」と「感情」に切り分け、「処理」しようとする。 しかし、貴は「それこそが、あなたの本質だ」と受け止める。

「美しい人間」を救うのは、ただの自己満足(エゴ)です。 「醜い人間」を、その醜さごと受け入れること。 これこそが「救い」の本質であり、その「痛み」を描き切った点に、私は本作の底知れぬ価値を感じました。

第三位:「蛍」というモチーフに込められた「祈り」の弱さ

(※ネタ…防止のため、Low calmによる要約・引用) 依頼人たちの「祈り」は、世界平和だとか、大金持ちになりたいとか、そんな大層なものではない。 「あの時、謝れなかったことを謝りたい」 「失くした、あの小さな思い出の品を見つけたい」 それは、触れたら消えてしまいそうな、弱く、小さな「蛍」の光のような願いだ。

私は、組織人として、常に「大きな成果」や「インパクトのある改革」を求められます。 小さな問題は「ノイズ」として処理されがちです。 人事労務の仕事も、「個人の小さな悩み」より「全社的な制度設計」が優先されます。

しかし、この物語は、その「ノイズ」こそが「人間の本質」だと語りかけます。 人が本当に抱えている苦しみとは、制度では解決できない、他人から見れば「どうでもいい」ような、小さな小さな「罪悪感」や「後悔」なのだと。

主人公の貴は、その「蛍の光」のような小さな祈りを、決して見捨てません。 「時間の無駄」だと切り捨てません。 私は、自分が日々、「効率」や「大義」の名の下に、どれだけ多くの「蛍」を踏み潰してきたか(=時間を無駄にさせてきたか)を思い知らされ、慄然としました。 これは、組織に属する全ての人間に読んでほしい「警鐘」です。


どんな人におすすめなのか

この本があなたの時間を豊かにするか、それとも無駄にするか。明確に線引きします。

おすすめな人

  1. 人事、教師、カウンセラー、管理職など「人を導き、救う」立場にある人 自分の「救済」が「エゴ」になっていないか、胸に手を当てて確認してください。これはあなたのための「鏡」です。
  2. 自分の過去の「罪悪感」や「後悔」に、今も囚われている人 この本は、あなたを安易に「赦し」ません。しかし、その「罪」を抱えたまま、どう生きるかという「覚悟」を与えてくれます。
  3. 「優しいだけの物語」に飽き飽きしている「イヤミス」寄りの読者 (私です)。これは「優しさ」の物語ではなく、「痛みを引き受ける」物語です。この「痛み」のリアリティは、あなたの時間を無駄にしません。

おすすめしない人

  1. 現在、精神的に深く落ち込んでおり、「癒し」だけを求めている人 絶対に時間を無駄にします。この本は「劇薬」です。他人の「罪」や「苦しみ」の描写が重く、あなたの傷を悪化させる可能性があります。
  2. 勧善懲悪。悪い奴がスカッと成敗される「分かりやすい物語」が好きな人 本作に「分かりやすい悪」は出てきません。出てくるのは「弱い人間」だけです。その曖昧さにイライラする方には向きません。
  3. 『52ヘルツのクジラたち』と、全く同じ「感動」を期待している人 テーマの根底は通じますが、本作は連作短編であり、アプローチが異なります。「あの衝撃をもう一度」と期待しすぎると、肩透かしを食らうかもしれません。

目次、著者のプロフィール、本の詳細

目次

本書は、海辺の町「灯台の見える町」を舞台にした、全六話の連作短編集です。

  • 第一話 泡
  • 第二話 刻
  • 第三話 砂
  • 第四話 影
  • 第五話 灯
  • 最終話 蛍

著者のプロフィール

町田 そのこ(まちだ そのこ) 1980年、福岡県生まれ。2016年、「カメルーンの青い魚」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞し、デビュー。 2021年、『52ヘルツのクジラたち』で第18回本屋大賞を受賞。 人間の「痛み」や「孤独」、社会から零れ落ちた人々に寄り添い、その「救済」の形を描き出す筆致で、多くの読者の支持を得ている。

本の詳細

  • 書籍名: 蛍たちの祈り
  • 著者: 町田 そのこ
  • 出版社: 中公文庫
  • 発売日: 2023年4月25日(文庫版)
  • ページ数: 352ページ(文庫版)


口コミ

Amazonのレビューは誰もが見るので、ここではX(旧Twitter)から、より「生」の声を拾ってきました。

良い口コミ

「蛍たちの祈り、読了。涙が止まらなかった。でも、優しいだけじゃなくて、ちゃんと痛い。貴さんの『覚悟』が凄まじい。自分もこんな風に、誰かの痛みに寄り添えるだろうか。」

「町田そのこさん、本当に人間の『どうしようもなさ』を書くのが上手い。登場人物みんな身勝手で弱い。でも愛おしい。最終話の『蛍』で全部繋がって、また泣いた。読んで良かった。」

悪い口コミ(または賛否両論)

「うーん、全部『いい話』でまとまりすぎてる気がした。主人公が聖人君子すぎて、ちょっと現実味がないかな。イヤミス好きとしては物足りない。」

「町田そのこさん、最近パターンが似てきたかも。『52ヘルツ』の衝撃が強すぎたせいか、本作は少し予定調和に感じてしまった。重いテーマなのに、読後感が軽すぎる。」


まとめ:あなたの時間を投資すべきか

『蛍たちの祈り』は、あなたの時間を投資する価値がある一冊でしょうか。

私は、本作の核心をこう読み解きました。 これは、「優しさ」の物語ではなく、「救済のコスト(代償)」を描いた物語です。

社会が無視する「蛍」のような小さな祈り(グッときたところ第三位)。 それを発する、「醜さ」や「弱さ」を抱えた人間たち(第二位)。 彼らを「救う」とは、安全圏から「処理」することではなく、自らも「業」を引き受ける壮絶な「覚悟」であること(第一位)。

  • 読む前の私(Low calm): 「イヤミス」を愛し、「感動ポルノは時間の無駄」と断じていた。人事部として「問題」は「処理」するものだと信じていた。
  • 読後の私(Low calm): この本は、私の「仕事」と「傲慢さ」を暴く「劇薬」だった。 私が「処理」してきた従業員たちの「小さな祈り(蛍)」を、私は本当に聞いてきただろうか。 私の「解決策」は、ただの「自己満足(エゴ)」ではなかったか。 そう自問させられました。

これは「時間の無駄」では断じてありません。 あなたの「優しさ」が「傲慢さ」に変わる前に、あなたの「正義」が誰かを踏み潰す前に読むべき、「自己投資」です。

あなたに問います。 あなたが今、誰かに差し伸べているその手は、「覚悟」の手ですか? それとも、ただの「エゴ」の手ですか?

その答えが即答できないなら、今すぐこの本を読み、あなたの「時間の使い方」と「心の在り方」を見直してください。


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