『第174回直木賞予想』|第173回の「空白」を埋めるのは誰か。候補10作に見る「時間投資」の正解。
「直木賞」という言葉を聞いて、あなたは何を思うだろうか。 ただのお祭り騒ぎ、あるいは売上を伸ばすためのマーケティングだと冷めた目で見ているかもしれない。私も以前はそうだった。
だが、300人規模の会社で給与計算と孤独に向き合い、難病を経て「人生の残り時間」を意識するようになってから、考えが変わった。
文学賞とは、膨大な新刊の海から、私たちの貴重な時間を投じるに値する「正解」を抽出するための、極めて効率的なフィルターなのだ。
前回、第173回は「該当なし」という厳しい結果に終わった。それはつまり、今回の第174回(2026年1月選考)には、その空白を埋めるだけの圧倒的な熱量を持った作品が集結していることを意味する。
今回は、2025年下半期の文壇動向を精査し、私の視点で「読むべき価値」が極めて高いと判断した10作品を厳選した。あなたの週末を投資する先を決める、その参考になれば幸いだ。
追記:今回は、見事候補作1冊的中しました!
以下の記事が今回発表された作品紹介です。


結論:この記事は「読む価値」ある?
- こんな気分向け 「話題の本」を網羅的に知りたいが、自分で調べる時間がない。プロ級の予想をもとに、ハズレのない一冊を選びたい。
- 読むと得られるもの 第174回直木賞の有力候補10選の全容と、それぞれの【太字マーカー:時間投資の適正】(重厚か、軽快か、癒やしか)。
- Low calmの判定 「時間投資の価値アリ」 (このリストさえあれば、今後数ヶ月の読書選びで迷うコストを削減できる。)
【徹底分析】第174回直木賞ノミネート予想10選
ここからは、今回の激戦を勝ち抜くと予想される10作品を、4つのカテゴリに分けて解説する。FPとして資産ポートフォリオを組むように、あなたの精神状態に合わせて選んでほしい。
1. 【最右翼】文学とミステリーの融合点
まずは、本命視される2作品だ。これらは「完成度」と「熱量」において頭一つ抜けている。
① 櫻田智也『失われた貌(かお)』 (新潮社)
山間の渓谷で見つかった顔のない死体。この警察小説の凄みは、「足を使った捜査」と「論理パズル」が完璧に融合している点にある。 年末の主要ミステリーランキングで3冠を達成した実績は伊達ではない。私が人事の仕事で重んじるのは「納得感」だが、この作品の結末には、論理的な解決の先に優しさとやるせなさのカタルシスが用意されている。時間を預けるに足る、最も堅実な投資先だ。
② 葉真中顕『家族』 (文藝春秋)
もしあなたが、読書に「癒し」だけを求めているなら、この本は避けるべきだ。 1000枚近いこの巨編は、擬似家族による洗脳と搾取を描いている。「こんな地獄見たことがない」というキャッチコピーは嘘ではない。だが、前回「該当なし」の結果を出した選考会が求めているのは、こうした圧倒的な重量感かもしれない。精神的に余裕がある時にのみ、手を取ることを推奨する。
2. 【リベンジと飛躍】前回候補・常連組の深化
実力がありながら、あと一歩で賞を逃してきた作家たち。彼らの「執念」は、私たちの日々の仕事への向き合い方にも通じるものがある。
③ 芦沢央『おまえレベルの話はしてない』 (河出書房新社)
タイトルからして、私のような組織に生きる人間の心をざわつかせる。 将棋の奨励会を舞台に、才能と嫉妬を描いた本作は、前回候補からわずか2ヶ月での刊行だ。人事的な視点で見れば、一度の失敗(落選)ですぐに次の成果物を提出してくるその「胆力」は驚異的だ。仕事で評価されず、誰かを妬ましく思った夜には、この本が毒をもって毒を制す処方箋になる。
④ 呉勝浩『アトミック・ブレイバー』 (講談社)
現代社会の閉塞感を打破するような爆発力が持ち味の呉勝浩。 社会正義やテロリズムを扱う本作は、タイトル通りエネルギッシュだ。直木賞候補常連の彼が、満を持して放つ一撃。停滞した日常に強烈な刺激とスピード感を求めるなら、この一冊を選ぶのが合理的だ。
⑤ 一穂ミチ『アフター・ユー』 (文藝春秋)
『スモールワールズ』の衝撃以降、常に高い評価を得ている一穂ミチ。 彼女の武器は、特殊な設定を使わずに、人間関係の微細なズレを描き出す筆力だ。候補作がミステリーや社会派に偏る中で、彼女のような「純度の高い人間ドラマ」は貴重な存在だ。静かに、しかし深く心に沈殿する物語を求めている時におすすめしたい。
3. 【ベテラン・大物】盤石の布陣と新境地
すでに確固たる地位を築いている作家たちだが、守りに入らず「新境地」を見せている点に注目したい。
⑥ 湊かなえ『暁星(あけぼし)』 (双葉社)
意外かもしれないが、国民的作家である彼女は直木賞を未受賞だ。 「イヤミスの女王」のイメージが強いが、本作のタイトルからは、暗闇の中で輝く希望や静寂が想起される。選考会が「誰が読んでも納得する格のある作家」を求めた場合、彼女の存在感は無視できない。安定した品質を保証された読書体験になるだろう。
⑦ 天野純希『サムライ漂海記』 (KADOKAWA)
戦国時代、海外へ売られスペイン海軍の傭兵となった日本人少年を描く歴史巨編。 近年の歴史小説は国内の視点が多いが、本作は舞台を世界へと広げている。グローバルな視点と、「武士」のアイデンティティを問う熱いドラマ。スケールの大きな物語で、日常の小さな悩みを吹き飛ばしたい時に最適だ。
4. 【独自性と多様性】ジャンルの拡張
直木賞の枠を広げるような、エッジの効いた作品群。
⑧ 岩井圭也『サバイブ!』 (祥伝社)
理系的な知見と社会システムへの鋭い眼差しを持つ若手実力派。 タイトルが示唆する「生存競争」や「逆境」をテーマに、現代社会の歪みを描いていると推測される。論理的な構成を好む読者や、社会構造への関心が強い人には、知的興奮をもたらす良質なテキストとなるはずだ。
⑨ 寺地はるな『世界はきみが思うより』 (講談社)
生きづらさを抱える人々を肯定する、彼女特有の温かさがある。 殺人や犯罪を扱う作品が多い候補群の中で、彼女の描く「生活の手触り」は、ある種の救いだ。激しい展開に疲れた心に、静かに染み渡る。休日、紅茶を飲みながらゆっくりページをめくるのに最も適している。
⑩ 北山猛邦『神の光』 (東京創元社)
「物理トリックの北山」による、5つの消失劇を描く連作長編。 巨大ロボットなどが登場する特殊設定ミステリだが、その完成度は極めて高い。通常、直木賞では敬遠されがちなジャンルだが、その「偏見」を覆すだけの力が本作にはある。純粋な驚きと知的遊戯を楽しみたいなら、この選択は大穴にして本命だ。


どんな人におすすめなのか
✅ おすすめな人(時間を投資すべき人)
- 「なんとなく面白い」ではなく、プロも唸る「完成度」の高い物語に触れたい人。
- 現代社会の不条理や、人間心理の暗部を解像度高く味わいたい人。
- 年末年始や週末を使って、質の高いインプットを行いたい人。
🚫 おすすめしない人(ミスマッチの可能性)
- 仕事で疲弊しきっており、今はただ、何も考えずにハッピーエンドだけを摂取したい人。
- 複数の登場人物や複雑なプロットを追うのが億劫になっている人(特に葉真中作品や天野作品)。
紙 or 電子どの形式で「時間」を使うべきか?
判定:電子書籍(Kindle等)
今回はあえて電子を推す。 理由は単純で、『家族』や『サムライ漂海記』など、物理的に分厚い大作が多いからだ。通勤電車や隙間時間で効率よく読み進めるには、物理的な重量はノイズになる。ただし、『失われた貌』のような端正なミステリーや、寺地はるな作品のような生活小説は、紙の質感を楽しむのも悪くない。自分の読書スタイルに合わせて、合理的に選択してほしい。
【30日無料】Kindleで試してみるまとめ:あなたの「時間」を投資する価値はあるか
第174回直木賞は、前回の「該当なし」という渇きを癒やすため、マグマのように溜まった才能が噴出する回になると予測される。
櫻田智也の「静」なる傑作か、葉真中顕の「動」なる怪作か。 あるいは、芦沢央や一穂ミチといった実力派がその座をさらうのか。
どの作品が受賞するにせよ、今回名前を挙げた10作品は、現代の文芸が到達した一つの「極み」であることは間違いない。あなたの貴重な人生の時間を、駄作に費やしている暇はないはずだ。この分析を参考に、今の自分の心境に最もフィットする一冊を選んでほしい。


