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『爆弾』(呉勝浩) ネタバレなし感想。あなたの時間を無駄にしない、究極の「イヤミス」体験。

Low Calm
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こんにちは、Low calmです。 今日の紅茶は、少し渋めのウバを選びました。静寂の中で湯気を眺めていると、窓の外を行き交う人々が、まるで音のない映像のように感じられる瞬間があります。

私たちは普段、無意識のうちに他人を「自分に関係のある人」と「背景の一部(モブ)」に選別して生きています。そうしなければ、情報の多さに心が摩耗してしまうから。けれど、もしその「背景」だと思っていた薄汚れた誰かが、あなたの命を握っているとしたらどうでしょう。

今回紹介する呉勝浩さんの『爆弾』は、そんな現代社会の盲点を鋭利な刃物で突き刺してくる一冊です。 分厚い本ですが、手に取ったが最後、あなたの週末はすべてこの「爆弾魔」との対話に奪われることになるでしょう。

結論:この記事は「読む価値」ある?

  • こんな気分向け:
    理不尽な社会へのモヤモヤがある時、あるいは最高峰の心理戦で脳を痺れさせたい時。
  • 読むと得られるもの
    圧倒的なリーダビリティによる没入感と、自身の倫理観を揺さぶられる知的体験。
  • 「時間投資の価値特大。ただし、体調が良い時に読むのが賢明。」

Low calmが「グッときた」ところベスト3

【第1位】「スズキタゴサク」という、魅力的すぎる不快な怪物

人事の仕事をしていると、どうしても人を「経歴」や「属性」というデータで判断する癖がつきます。清潔感、学歴、職歴。それらが揃っていれば「まともな人間」だと錯覚しがちです。

本書のキーパーソン、スズキタゴサク(本名ではない)は、そんな私の職業的なバイアスをあざ笑うかのような存在でした。彼は薄汚れた中年男で、酔っ払って暴れ、取調室でも悪臭を放ちます。社会の最底辺、取るに足らない存在。誰もが顔をしかめて通り過ぎる「ノイズ」のような男。

しかし、ひとたび口を開けば、彼は警察組織のエリートたちを手玉に取り、論理と詭弁の迷宮へと引きずり込みます。

「ここ、霊感所? クイズ? それとも、大喜利?」

彼が仕掛けるのは、爆弾のありかを当てる「命のクイズ」。 私が恐怖と共に惹かれたのは、彼がただの狂人ではなく、恐ろしいほどに「こちらの弱点(差別意識や驕り)」を見透かしている点です。彼の言葉は、彼を見下していた刑事たち、そして読者である私たちの心の隙間にねっとりと侵入してきます。

【第2位】「命の選別」を迫られる極限のリアリティ

難病を経験し、「明日が来ることは当たり前ではない」と骨身に染みている私にとって、この小説が突きつけるテーマはあまりに痛切でした。

爆弾は東京のあちこちに仕掛けられています。警察はスズキの出すヒントをもとに爆弾を探しますが、すべての場所を同時に救うリソースはありません。 「誰を助け、誰を見捨てるか」 究極のトリアージを迫られた時、人間は何を基準にするのか。金持ちか、若者か、社会的地位のある人間か。

FPとして「将来の価値」を計算することには慣れていますが、この作品は「今、この瞬間の命の価値」に優劣はあるのかと問いかけてきます。 スズキタゴサクの放つ問いは、社会システムがいかに「持たざる者」を切り捨てて成立しているかを暴き出します。フィクションでありながら、今の日本社会の縮図を見せられているようで、ページを捲る手が冷たくなりました。

【第3位】500ページ超を一気読みさせる「費用対効果」の高さ

ここからは少しドライに、FP的な視点でお話しします。 本書は単行本で400ページの長編です。読むにはそれなりの時間コスト(おそらく4〜6時間)を要します。 しかし、その「時間対効果(Time ROI)」は極めて高いと言わざるを得ません。

物語のほとんどは取調室での会話劇と、現場の緊迫した捜査のみで進行します。にもかかわらず、中だるみする瞬間が一切ない。ジェットコースターというよりは、落下し続けるエレベーターの中にいるような持続的な緊張感です。 「長い本はちょっと……」と敬遠するのは損失です。一度読み始めれば、中断することの方が難しくなる。週末の予定を空けてでも読む価値のある、極上のエンターテインメントだと断言できます。

どんな人におすすめなのか

✅ おすすめな人(時間を投資すべき人)

  • 『ダークナイト』のジョーカーのような、知能犯との対話に痺れたい人。
  • 社会の理不尽さや、人間の「悪意」の深淵を覗き見たい人。
  • 週末に没頭できる、骨太な物語を探している人。

🚫 おすすめしない人(ミスマッチの可能性)

  • 登場人物に感情移入しすぎると辛くなる人(不快な描写も多いため)。
  • 現在、精神的にひどく落ち込んでいる人(毒が強すぎます)。
  • 勧善微悪ですっきりと終わる物語を求めている人。

紙 or 電子どの形式で「時間」を使うべきか?

【結論:単行本(または文庫本)の「紙」】

電子書籍派の私ですが、この本に関しては「紙」を推奨します。 理由は二つ。一つは、物語の構成上、前のページの伏線や記述を何度も確認したくなるから。 もう一つは、この本の持つ「物理的な重み」が、そのまま命の重みを感じさせる装置になっていると感じたからです。 もちろん、文字を追うのが辛い場合はオーディオブックも悪くありません。スズキタゴサクの不気味なセリフ回しは、音声で聞くとより一層、背筋が凍る体験になるでしょう。

あなたの「時間」を投資する価値はあるか

正直に言えば、『爆弾』は読んでいて心地よい本ではありません。 読了後、紅茶の味すらわからなくなるような、重たい疲労感が残るかもしれません。 しかし、それは徒労感ではなく、本気で思考し、感情を揺さぶられた証拠です。

安全地帯から他者をジャッジすることに慣れてしまった私たちに、冷や水を浴びせてくれる一冊。 あなたの平穏な日常に、あえてこの「爆弾」を持ち込む覚悟があるなら、ぜひ手に取ってみてください。 その投資に見合うだけの衝撃が、そこには待っています。

あなたの「時間」を豊かにする一冊

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