村田沙耶香『生命式』感想|常識が溶ける快感と違和感。「普通」に疲れたあなたへ
「普通」って、なんでしょうか。 「常識」って、誰が決めたのでしょうか。
私たちは毎日、目に見えない「こうあるべき」というルールの中で生きています。 結婚、出産、仕事、人間関係…。世間が良しとする「普通」のレールから少しでも外れると、途端に不安になったり、周囲から奇異な目で見られたり。
そんな「普通」の圧力に、息苦しさを感じたことはありませんか?
もしあなたが、少しでも「生きづらさ」や「違和感」を抱えているなら。 もしあなたが、自分の信じている「当たり前」を根底から揺さぶられたいと密かに願っているなら。
村田沙耶香さんの短編集『生命式』は、あなたのための「劇薬」かもしれません。
この記事でわかること
- 村田沙耶香『生命式』がどんな本なのか(全12編の短編集です)
 - なぜこの本が「気持ち悪い」と「最高」で賛否両論なのか
 - 読むとあなたの価値観がどう揺さぶられるか
 - あなたが『生命式』を読むべきかどうかの判断基準
 
この記事の信頼性
はじめまして。当ブログを運営しているLow calm(ロウカーム)と申します。 美味しいお茶を淹れ、ひたすら本の世界に浸る時間を愛する、自称「本の変人」です。
私のモットーは、「あなたの時間を大切にすること」。 私自身が「本選びの失敗」を心底嫌っており、このブログでは、私が「これは!」と確信した良書だけを厳選して紹介しています。
今回ご紹介する『生命式』は、正直、読む人を選びます。 「癒される」とか「感動する」といった、いわゆる「安全な本」ではありません。 しかし、あなたの日常を「失敗」させてくれる(=常識を壊してくれる)という意味で、これ以上ない「成功体験」をもたらす一冊だと確信し、筆を執りました。
あなたの「普通」を破壊する12の物語
この記事は、村田沙耶香さんの短編集『生命式』を、ネタバレなしで徹底的にレビューするものです。
「村田沙耶香といえば『コンビニ人間』でしょう?」 そう思っている方にこそ、読んでいただきたい。
『コンビニ人間』で描かれた「世界の異物」としての主人公の姿。あの感覚が、本書では12通りの異なる形で、より鋭く、より純度高く、私たちの目の前に突きつけられます。
この記事を読み終える頃、あなたはこの「劇薬」を飲むべきか(読むべきか)を判断できるようになります。そして、もし読むことを決めたなら、読み終えた後、昨日までと同じ世界が、まったく違って見えるようになるかもしれません。
それでは、お茶の準備はよろしいですか? Low calmが厳選した「失敗しない」ための「劇薬」レビュー、ごゆっくりお楽しみください。
🧠衝撃と違和感の渦!『生命式』グッときた(揺さぶられた)ところベスト3
この短編集には12編の物語が収録されていますが、どれもが私たちの「常識」や「倫理観」を、様々な角度から殴りつけてくるような作品ばかりです。 私が特に「グッときた」というより、「脳が揺さぶられた」と感じたポイントを3つ、厳選してご紹介します。
1位:表題作「生命式」が突きつける「生のサイクル」への問い
「(人が死んだら、その肉を使って)みんなで美味しくいただいて、その人のことを語り合う」 ※本書の核心的な世界観を要約したものです。
【理由と体験談】
本書のタイトルにもなっている表題作「生命式」。 この作品の世界では、人が死ぬと、その遺体を使って料理を作り、参列者で「食べる」儀式が行われます。それが「生命式」です。
最初、この設定を読んだとき、正直「うわ、グロテスクだ」「気持ち悪い」と強い拒否反応が出ました。 私たちが生きる現代日本では、「人の肉を食べる」ことは最大のタブーの一つです。
しかし、物語を読み進めるうちに、主人公たちはその儀式を「神聖」で「合理的」なものとして、ごく自然に受け入れていることがわかります。彼らにとって、死者の肉を「廃棄」する(=火葬や土葬する)私たちの文化こそが、「野蛮」で「命を無駄にしている」と映るのです。
この逆転に、私は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。 「なぜ、私はこれを”気持ち悪い”と感じるんだろう?」 「私たちが”常識”として行っている葬儀は、本当に絶対的に”正しい”のか?」 「命を”いただく”ことの本質って何だ?」
私たちは普段、牛や豚や魚を「美味しく」食べています。それは「常識」の範囲内です。でも、なぜ「人」はダメなのか。 その境界線を引いているのは、一体何なのか。 そう考え始めたら、もう止まりません。
村田沙耶香さんは、私たちが無意識に引いている「聖」と「俗」、「常識」と「非常識」の境界線を、いともたやすく溶かしていきます。 読み終えた後、自分の倫理観がグラグラと揺らぐ、強烈な体験でした。
2位:「素敵な素材」に見る、狂気と純粋さの境界線
「(姉の遺骨や髪を使って作ったものを身につけ)本当に素敵。お姉さんも喜んでいるわ」 ※作品の雰囲気を伝えるための意訳です。
【理由と体験談】
この短編も、強烈な違和感を突きつけてきます。 主人公は、亡くなった姉の遺骨や髪、皮膚などを使って、アクセサリーやセーター、家具などを作ります。そして、周囲の人々はそれを「素敵」「故人を身近に感じられる」と絶賛するのです。
これもまた、「生命式」と同じく「不謹慎だ」「狂っている」と感じるのが、私たちの「常識」でしょう。
しかし、私は読みながら「待てよ」と思いました。 故人の形見を大切に持ちたい、という気持ちは誰にでもあります。それが写真なのか、愛用していた万年筆なのか、それとも「遺骨」なのか。その違いはどこにあるのでしょうか。
現代でも、遺骨をダイヤモンドにして身につけるサービスがあります。それは「素敵」とされるのに、なぜ本作の主人公の行為は「狂気」に見えるのか。
村田さんは、この物語を通して「人間を”素材”として見ること」の是非を問いかけてきます。 でも、よく考えてみれば、私たちは日常的に他人を「道具」や「素材」として見ていないでしょうか? 「あの人は仕事ができる(=会社の素材として優秀)」 「この人は異性にモテる(=恋愛市場の素材として価値が高い)」
そう考えると、主人公の「純粋さ」と、私たちが持つ「功利的な視点」のどちらが、より「狂っている」のか分からなくなってきます。 「普通」と「異常」の境界線が曖昧になる、ゾッとするような読書体験でした。
3位:「大きな星の時間」が描く「多数派の時間」への息苦しさ
「地球の時間で生きるのが苦しい。私はあの星の時間で生きたい」 ※作品の雰囲気を伝えるための意訳です。
【理由と体験談】
『コンビニ人間』の主人公・古倉さんを彷彿とさせる、「この世界」の仕組みにうまく順応できない人々の息苦しさを描いた作品です。
主人公の女性は、地球の「24時間周期」や「常識的な人生のステップ」(就職、結婚など)にうまく自分を合わせることができません。彼女は、遠い宇宙にある「大きな星」の、もっとゆったりとした時間の流れで生きていると信じています。
周囲から見れば、それは「現実逃避」や「怠惰」の言い訳にしか聞こえないかもしれません。 しかし、彼女にとっては、社会が押し付けてくる「標準時」こそが、自分を殺す「暴力」なのです。
これは、私自身にも深く刺さりました。 社会生活を送る上では、「普通」を演じている部分が多々あります。 「みんながそうしているから(朝9時に出社する)」 「常識的に考えて(この年齢なら結婚すべき)」 そんな言葉で、自分の本当の感覚やリズムを押し殺してしまうことがあります。
この作品は、「普通」のレールに乗れない人、多数派が作った「標準」に合わせるのが苦しい人々の孤独感を、痛々しいほどリアルに描き出します。 「なぜ、人と違ってはいけないのか?」 「なぜ、自分の感覚を”矯正”しなければならないのか?」
村田作品の真骨頂は、こうした「普通」の世界の「異常さ」を、マイノリティの視点から鮮やかに暴き出す点にあると、改めて確信しました。 「普通」に疲れている人にとって、本書の主人公たちの存在は、ある種の「救い」にすらなるかもしれません。
🤷♀️こんな人におすすめ(おすすめしません)
この本は「劇薬」です。万人に効く「万能薬」ではありません。 私(Low calm)の「失敗しない本選び」の観点から、どんな人に「処方」すべきか、すべきでないかをハッキリとお伝えします。
✅『生命式』をおすすめしたい人 3選
- 日常の「普通」や「常識」に息苦しさを感じている人 「なぜ〇〇しなきゃいけないの?」「みんなと同じがそんなに偉いの?」…そんなモヤモヤを常に抱えている人。本書は、あなたのその感覚が「間違っていない」と肯定し、凝り固まった常識を木っ端微塵に破壊してくれます。
 - 村田沙耶香の『コンビニ人間』が本当に好きだった人 『コンビニ人間』の「読みやすさ」ではなく、あの作品の根底に流れる「世界への強烈な違和感」や「常識への疑問」にこそ共感したという人。本書は、あの感覚の「濃縮還元液」のような作品集です。存分に浴びることができます。
 - 安全地帯から出て、価値観を揺さぶられたい人 読書に「癒し」や「感動」だけを求めるのではなく、「刺激」「思考の揺さぶり」「未知の感覚」を求めているチャレンジャー。あなたの知的好奇心を、これでもかというほど満たしてくれるはずです。
 
🚫『生命式』を処方しない方がいい人 3選
- 食事中や食後に読む本を探している人 (特に表題作「生命式」や「素晴らしい食卓」など)食に関するタブーや、人によってはグロテスクと感じる描写が鮮明に含まれます。お茶のお供には…あまりおすすめできません。読む時間と場所を選びます。
 - 読書に「癒し」や「心が温まる話」を求めている人 本書は真逆です。心をザワつかせ、不安にさせ、時には不快にさせる力を持っています。読後に「あー、面白かった!」とスッキリするタイプの本ではありません。むしろ、モヤモヤと考え込むことになります。
 - 自分の「常識」や価値観を絶対に疑いたくない人 「今、自分が信じている倫理観や常識こそが絶対だ」と固く信じている人。本書は、その土台を激しく揺さぶります。強い不快感や嫌悪感だけが残ってしまう可能性が高いです。
 
📚『生命式』の基本情報(目次・著者プロフィール)
ここで、本書の基本的な情報を整理しておきます。
目次(収録作品)
この短編集には、以下の12編が収録されています。
- 生命式
 - 素敵な素材
 - 素晴らしい食卓
 - 夏の口付け
 - 二人家族
 - 大きな星の時間
 - ポチ
 - 魔法のからだ
 - かぜのこいびと
 - パズル
 - 街を食べる
 - 孵化
 
著者のプロフィール
村田 沙耶香(むらた さやか) 1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部卒業。 2003年、『授乳』で第46回群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。 2009年、『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。 2013年、『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。 2016年、『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞を受賞。同作はベストセラーとなり、世界各国で翻訳されている。
本の詳細
- タイトル: 生命式
 - 著者: 村田 沙耶香
 - 出版社: 河出書房新社 (2019年)
 - 文庫版: 河出文庫 (2022年)
 - ページ数: 240ページ(文庫版)
 
🗣️世間の声は? 口コミ(Xから収集)
Amazonのレビューは誰もが見るので、ここではTwitter(X)から、よりリアルな「叫び」に近い感想を集めてみました。やはり、賛否両論です。
良い口コミ(衝撃・絶賛)
「『生命式』読了。頭を鈍器で殴られたような衝撃。常識とは何か、普通とは何か、をここまで揺さぶられるとは…。村田沙耶香、天才か。」
「最初は『気持ち悪い』が先行したけど、読み進めるうちに『あれ?もしかしてこっちの世界の方が合理的…?』と思わされてる自分がいて怖くなった。完全に村田ワールドの虜。」
「『コンビニ人間』もすごかったけど、『生命式』の短編集はヤバい。特に表題作と『素敵な素材』。自分の倫理観がぐちゃぐちゃになる快感。最高。」
「『普通』に生きるのがしんどい人は絶対に読むべき。『大きな星の時間』とか、理解者がここにいる、って思える。」
悪い口コミ(困惑・拒否反応)
「ごめんなさい、私は無理だった…。表題作『生命式』の途中でギブアップ。トラウマになりそう。」
「『気持ち悪い』という感想しか出てこない。作者の頭の中はどうなってるんだ…。理解が追いつかない。」
「(表題作を読んで)シンプルに食欲なくした。人に勧める時は『閲覧注意』って言わないとダメなやつ。」
「面白いとか面白くないとかじゃなくて、ただただ『怖い』。私たちが信じてるものが、全部ひっくり返される怖さ。」
Low calm的 口コミ分析
いかがでしょうか。 「最高」「天才」という絶賛と、「無理」「気持ち悪い」という拒否反応が、ここまでハッキリと分かれる作品も珍しいです。
しかし、注目すべきは「悪い口コミ」ですら、強いエネルギーを持っていることです。 「どうでもいい」「何も感じなかった」という感想がほとんどない。
これは、本書が読者の感情の「安全圏」を確実に踏み越え、心を激しく揺さぶった証拠です。 「本選びに失敗したくない」私があえて本書を推す理由は、まさにここにあります。 良くも悪も、あなたの時間を「無駄」にはさせない。 読んだことを絶対に忘れられない、強烈な読書体験を保証してくれる一冊なのです。
🖋️まとめ:あなたの「普通」を壊す、最高の劇薬
さて、村田沙耶香『生命式』の書評をお届けしてきました。
最後に、私が本書を読んでどう変わったのか、そしてあなたにどんな行動をおすすめしたいかをお伝えします。
「常識」という名の檻からの脱出
今回ご紹介した「グッときたところベスト3」
- 「生命式」(生の根源的なタブーへの問い)
 - 「素敵な素材」(人間をモノとして見ることへの問い)
 - 「大きな星の時間」(社会規範や時間感覚への違和感)
 
これらはすべて、私たちが無意識に従っている「常識」という名の檻を、外側から(あるいは全く別の論理で)こじ開けようとする試みです。
【本を読む前の私(Before)】 「常識的に考えて、こうするのが正しい」 「みんなと違うことをするのは不安だ」 「人として、これはやってはいけない」 そうした社会のルールを、疑うことすらせずに受け入れていました。
【本を読んだ後の私(After)】 「待てよ。その”常識”って、誰が決めたんだ?」 「なぜ、私たちはこれを”正しい”と信じているんだろう?」 「このルールが通用しない世界も、あり得るんじゃないか?」 日常のあらゆる場面で、そう立ち止まって考える「もう一人の自分」が生まれました。
世界が、少しだけ相対的なものに見えるようになったのです。 これは、生きづらさを感じていた私にとって、非常に大きな「解放」でした。
あなたへのおすすめアクションプラン
もし、この記事を読んで『生命式』に興味が湧いたなら。 ぜひ、以下のステップを試してみてください。
- まずはお試しで1編だけ読んでみる。 いきなり表題作「生命式」から入ると衝撃が強すぎるかもしれません。まずは『コンビニ人間』の雰囲気に近い「大きな星の時間」や、少し不思議な家族観を描く「二人家族」あたりから読んで、村田ワールドの「違和感」に触れてみてください。
 - 衝撃を受けたら、一度本を閉じてみる。 「気持ち悪い」「理解できない」と感じたら、それはチャンスです。本を閉じて、「なぜ自分はこんなにザワワするのか?」を自問自答してみてください。そこに、あなたの「常識」の正体が隠されています。
 - 読み終えたら、誰かと「語り合って」ください。 この本は、一人で抱え込むにはあまりに強烈です。「あなたはどう思った?」「どこが一番ヤバかった?」と、友人やSNSでぜひ感想を共有してみてください。他人の「常識」と自分の「常識」の違いを知ることで、さらに思考が深まるはずです。
 
最後に
「失敗しない本選び」をモットーにする私が、あえてこの賛否両論の「劇薬」をおすすめしました。 なぜなら、つまらない本で時間を無駄にすることこそが、最大の「失敗」だと考えるからです。
『生命式』は、あなたの価値観を揺さぶり、日常を新鮮な(あるいは奇妙な)目で見直すきっかけを与えてくれます。 それは、他のどんな「安全な本」からも得られない、貴重な体験です。
あなたの「普通」を壊し、新しい視点を与えてくれる一冊。 この衝撃を、ぜひご自身で体験してみてください。

